ボーイハント (1)
                                      
作:michi

「あ〜あ・・・。」川端由梨の溜息が寒空に吸い込まれた。大学は冬休みに入り、もうすぐクリスマスと彼女の周りの友人は浮き足立ってる。・・・・だが由梨の心は以前モヤモヤした気持ちが残り、ただ1人キャンパス内のベンチに座るだけだった。

「あ!ユーリ!やっぱりココにいた。」友人の三浦冴子が声をかけた。ユーリとは彼女がつけた由梨のニックネームだ。

「こんなトコ居るとまた変な男にナンパされるよ。」悪気の無いのは分かってるが、由梨にはその言葉が少々突き刺さる。自分の容姿は・・・まあ普通だろうとは思うのだが、目鼻のくっきりとした日本人離れの美貌を持った冴子に言われれば・・・・少々へこむ。

「ほっといてよ・・・どうせ私にはそんな色事には縁が無いですよ〜だ。」少々反発心が有ったがそれを悟られないよう、由梨はおどけてそう返した。

「もったいないなあ〜、ユーリ・・・もうちょっとお洒落すれば凄く輝くのに。」そう言いながら冴子は由梨のジーンズの裾を摘んだ。

「お生憎様。私は外見でしか判断しない男には興味無いから。」しまった、コレではまるで冴子が見てくればかりの女だと言ってると捕らえられるかもしれない。

「違うでしょ〜?」しかし冴子はさして気にする様子も無く、会話を続けた。

「違うって何?」

「ふふ、私知ってるもんね〜・・・ユーリの趣味。」

「え・・・?あなた・・・まさか・・・覚えてるの?」

「うふふふ・・・。」冴子は美しい笑顔を少々歪ませながら含み笑いを続けた。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

― そう、それはこの間彼女と一緒に飲みに行った時のことだった。2人は久し振りに意気投合し、近くのカクテルバーで上機嫌で酔っ払っていた。

「ねえ、ユーリってばやっぱヘンよ。」頬杖をつきながら冴子が絡んできた。

「ヘン?変って何が?」由梨は聞き返した。彼女もほろ酔い加減だった。

「だってさ〜・・・その年にもなって男の話が出てこないんだもん。やっぱ変。」

「そりゃあ・・・あなたはモテるからねえ。・・・・私なんて・・・。」

「ユーリだって充分可愛いじゃん。でも傍から見てると全然男に興味無いみたい。もしかして・・・レズ?」

「あははっ、まさかあ〜・・・私だって男に興味無い訳じゃないよ。只ね・・・・。」

「え?何々?」由梨の思わせ振りな言葉に冴子が身を乗り出してきた。

「私が好きなのは男じゃなくて・・・男の子。それも中学生以下。」はっきり言ってしまった。親友である冴子に心を許しすぎたかもしれない。

「・・・・ぷっ、くくっ、きゃははは。傑作!ユーリってばショタだったんだ。」

「ショタって何よ?」

「小さい子を愛でる性癖の事よ。まあロリコンの女版ってトコかな?」

「ロリ・・・って、失礼ね!私そんな変態じゃないわよ。」

「まあまあ・・・クスクス・・・でも何だか納得したわ。そうか〜それで浮いた話も無かったって訳ね・・・クスクス。」冴子は尚も笑い続けてた。どうやら彼女の方はだいぶ出来上がってしまってるらしい。

「全く・・・こんな話をするんじゃ無かった・・・・。」

「ゴメン、ゴメン。もう笑わないからさあ〜。」冴子はそう言いながら、カクテルの追加をバーテンダーに伝えた。

「それにね・・・・こんな事言ったらまた笑われるだろうな・・・・。」

「笑わない、笑わない。だからね?言って。」由梨は普段はそういう話はしない。だが、今日はアルコールが入っている上に、話し相手は冴子1人である。

「・・・鼻。私ね・・・男の子の顔を見るとどうしても鼻を摘みたくなるの。」

「はあ?」冴子は笑う代わりに怪訝な表情を見せた。

「ああ、やっぱり話すんじゃ無かった。」由梨は恥かしさの余りテーブルに突っ伏した。

「あ、待って。待ってよユーリ。そんなんじゃ無いって。・・・・摘むって相手の子の鼻をよね?自分のじゃ無いのよね?」

「・・・・うん。昔、昼寝してる男の子にね・・・悪戯しようとして・・・・その子の鼻を摘んだら・・・こうプニッていうか、ムニュッていうか心地よい感触があって・・その子の顔も苦しそうに歪んで・・・それが可愛かったっていうか、何か病みつきになったような感じがしたのよ。」ここまで来たら全て話すしかないと由梨は覚悟を決めた。中途半端に終えたらますます冴子は引くだろう。

「ウ〜ン・・・・・分かるような分からないような・・・・。」冴子は腕組をして考え込んだ。

「もう!そんなに深く考えないで!こんなの私さえよく分からないんだから。」由梨は次のカクテルを注文した。その場の空気を変えたかったのだ。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「ショタで鼻フェチ・・・なかなか面白い組み合わせじゃない?」冴子は他人事のように笑って言った。

「分かってるのよ・・・そのお陰で未だに彼氏がいないってのも。」由梨は反発する気も失せ落ち込んで見せた。

「あなたが男だったらいっぺんでキモいと言われちゃうわね。」

「・・・・・フン。」

「まあまあ、そう拗ねないでよ。ユーリに実はいい話があるんだから。」冴子は由梨に機嫌を取るような眼差しで言った。

「また合コン?今日はそんな気になれないんだけど。」

「違う違う。ちょっと私に付き合ってくれない?」そう言って冴子は由梨の手を引いて歩き出した。    

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「ここって・・・あなたの下宿先じゃない。」着いた先は冴子が一人暮らししているマンションだった。

「いいから来て♪」冴子は楽しげに由梨を連れて自分の部屋へと向かった。

「ただいま〜。ユウ君、いい子にしてた〜?」

「あ、冴子さん。お帰りなさい。」由梨は部屋に入るなり立ちすくんだ。冴子の部屋には1人の男の子がホウキを持って立っていた。多分掃除の途中なのだろう。

「紹介するね。この人は私の親友、川端由梨さん。」

「初めまして。」男の子はペコリとお辞儀をした。

「あ、あ、こちらこそ。」由梨もつられて頭を下げた。ドクンと鼓動が響いた。冴子に負けず劣らずの美少年だったからだ。

「この子はね富沢祐樹君。私のイトコでね。家が近いからよく遊びに来るんだ。」冴子は得意げに由梨に説明した。

「そうなの・・・祐樹君は幾つ?」由梨は出来るだけ平常心を保とうとして彼に質問をした。

「はい。中1です。今年の春入学しました。」まだあどけなさの残る笑顔で少年はそう答えた。

「ふ、ふ〜ん。そう・・・。」ドギマギしてるのが自分でも分かる。顔が熱い・・・赤面してるのだろう。

「ふふ、可愛いでしょう?この子ったら顔見知りな所があるからあまりクラスメートとも遊ばないのよ。私にベッタリなんだから・・・・。」冴子は自分の性癖を知ってて自慢する為に連れてきたのだろうか・・・・。由梨は少しムッとした表情をした。

「何言ってるんだよ冴子さん。僕だって毎日ここに来てる訳じゃ無いよ。家庭教師のお礼に頻繁に掃除に来いって言ったんじゃないか。・・・それに僕ももう大人なんだから‘可愛い’なんて言わないでよね。」少年が膨れた。その仕草もまた由梨のツボにはまっていた。

「ね、ねえ冴子。」堪らず由梨は冴子を連れてキッチンへと入った。

「私を彼に会わせてどうする気?」単刀直入に冴子に聞いた。

「フフ〜ン・・・由梨はどうしたい?あの子・・・・。」思わせ振りな笑顔で冴子は由梨に聞き返した。

「どうするって・・・そもそもあなたが私を連れてきたんじゃない。赤の他人の私が何の前触れも無くココに来てどうしろって言うの?」そう言いながら由梨はちらっと祐樹を見た。彼は彼女の訪問に何の疑問を抱く事無く鼻歌交じりで掃除を続けていた。

「ふふ、ユーリったら素直じゃ無いなあ。いつも私に付き合ってくれてるお礼よ。あの子を好きにしていいって言ったら嬉しいでしょ?」間違い無く由梨のショタコンを見通しての企みだ。

「好きに・・・って・・・何でもしていいの?」由梨がゴクリと唾を呑込んだ。

「・・・でもね、決して傷をつけるとかそういう事はしないでよね。」冴子は真面目な顔をして言った。

「そ、そんな事は考えて無いわ。」由梨は慌てた。

「あ、それとね、エッチする時は床汚さないようにしてね。」

「え、え、えエッチですって?」由梨は火が出そうなぐらい顔を真っ赤にした。

「あはは、ユーリったら意外と純情だね。最近の子供はそんなの抵抗無いって。」冴子は平気な顔で笑った。

「ででで、でも・・・今会ったばかりの子にそんな事・・・・」由梨の鼓動が今より激しくなった。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「それじゃあ私出かけてくるから、お姉さんと仲良くねえ〜。」慌てる由梨を無視して冴子は楽しげに出て行った。

「・・・え〜と・・・。」由梨は困り果ててしまった。いくら親友といえども冴子の部屋で主人を差し置いて自分が居残るのはかなり不自然だ。だが、祐樹の方は何も気にして無いらしい。相変わらずかいがいしく洗濯物を折りたたんでる。

「・・・祐樹君って奥さんみたいね。」由梨は沈黙に堪えられず何気無く言ってみた。

「はは、冴子さんにも良く言われます。」

「あ、ゴメン。男の子には失礼だよね、こんなの。」

「いえ、別に構わないです。」

「・・・・・・。」また沈黙が続いた。どうしよう・・・・由梨は困ってしまった。こんな事ならもう少し冴子を引きとめて打ち合わせをするべきだった。

「祐樹君は掃除が終わったら家に帰るの?」

「いえ、留守番も頼まれてるから冴子さんが帰ってくるまでは居ます。」

「へえ・・・何しながら待ってるの?」何か尋問するようで嫌な感じだったが、黙りこくるよりはマシだと思った。

「ウ〜ン・・・・何するとまでも・・・読書したり宿題したり・・・あ、テレビも観るかな・・・・。」祐樹はコクリと頭を傾け応えた。

「フ〜ン・・・・そうなんだ・・・・。」由梨はテーブルに肘をついた。

「私は・・・レポートの提出があるから・・・冴子と打ち合せなんだ。」由梨は取り敢えず自分がココに居る理由を作った。

「そうですか・・・・じゃあ僕はお邪魔では?」祐樹は振り返った。

「ううん、そんな事無いよ。1人じゃ寂しいし。」由梨は慌ててかぶりを振った。

「良かった・・・由梨さんが余り喋らないから、何か怒らせてるんじゃ無いかと・・・。」

キュウウン!彼の言葉に由梨の心が高まった。何ていい子なの!思わず抱きしめたくなる衝動に駆られながら彼女は立ち上がった。

「ごめんなさいね。私もどっちかと言うと無口な方なんだ。・・・・ねえ、何もする事無かったら・・・ゲームでもしようか?」

「ゲームですか?でもココにはテレビゲームどころかトランプも無いし・・・。」戸惑う彼の表情に日頃の生真面目さが垣間見えた。

「ふふ、そんな物無くてもゲームは出来るわよ。」高まる鼓動を抑えながら由梨は言った。彼女が幼い頃はいろんな遊びがあった。しりとりや伝言ゲームなど道具が無い故に体だけを使った工夫が有ったのだ。まあ、現代っ子である祐樹には余り馴染みが無いのかも知れないが・・・・・・。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「コレがジャスミン。それとコレがフローラルね・・・・。」由梨は冴子と自分のコレクションである香水のビンを次々と祐樹に嗅がせていった。その数は2人分を合わせて数十種類にも及ぶ。祐樹は冴子がいつも取り出す様々な香水に興味が有るとの事だった。赤や青の綺麗な小瓶が男の子にとっては何か秘密めいたアイテムに思えて魅力的だったと・・・・。

「じゃあ、コレはな〜んだ?」由梨は1つの瓶を祐樹の鼻先にかざした。

「え〜と・・・・・・シトラス・・・・かな?」祐樹はスカーフで目隠しをされていた。

「すご〜い!たった1回教えただけなのに・・・・正解よ。祐樹君て記憶力がいいのねえ。」

「いやあ、それ程でも。・・・・それより由梨さん・・・。」

「うん?なあに?」

「僕・・・・どうして縛られてるんですか?」目隠しをされるやいなや祐樹は椅子に座らされ、タオルで後ろ手に縛られていたのだった。

「ズルされない為じゃない。・・・痛い?」

「いえ、いいんですけど・・・・・。」さすがに体を自由に動かせないのに少々ためらいがあるのだろう・・・祐樹は不安げに時々体を捩じらせた。その仕草がまた由梨の加虐心を刺激するのだった。

「じゃあコレは?」

「ウ〜ン・・・・ラベンダーです。」

「またまた正解!ここまで来るとちょっと怪しいわね〜。実は見えてるんじゃないかしら?」由梨は一旦祐樹の目隠しを外した。暗闇から解放された少年の瞳が輝きだす。それさえも由梨を萌えさせる物だった。

「そんな事無いですよ。しっかり縛られてたから。」スカーフを怪しげに見つめる由梨の姿がおかしいのか祐樹はフフ、と笑った。

「何か予想外だなあ〜。こうポンポンと当てられると悔しくなっちゃう。」本当はさほど悔しくも無いのだが、この香当てゲームを盛り上げる為に由梨はわざと大袈裟なリアクションを表していた。

「さ、由梨さん、続き続き。」由梨の努力の甲斐あってか、祐樹もノって来てるみたいだ。

「よおっし!負けないからね!」由梨も童心に帰ったようにはしゃぎ、再び祐樹に目隠しをした。 


 投稿の目次     その2に続く

ボーイハント 1