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続・九輪君の場合 (1)
作:れいのっく
「あんっ、あぁっ、あぁンっ、んっ、んぁ――」
「は――ぁっ……はぁ、はぁ、ぁ……」
明かりの落とされた、薄暗いプレハブの部室の隅。ソファにタオルケットを敷いただけ
の粗末なベッドの上、二つの人影が絡み合っている。
「あぁっ、はぁっ、ん……っ――せんぱいっ、先輩っ……気持ち、いい……?」
「くっ……ぁ……ぁぁ」
白い裸身をくねらせ、上になる少女が愛おしそうに相手の少年を見下ろした。彼女に馬
乗りになられる格好で、少年はうなずきを返すのが精一杯だ。
「ふふ、嬉しい……ボクも、すごく――気持ちいい……」
覆いかぶさってキスを浴びせながら、少女は腰の動きを速めた。少年は喉からかすかに
息をもらし、小さな身体を下から抱きしめる。
汗に濡れた肌を震わせ、二人は同時に絶頂へ達した。ひときわ大きな声を上げ、少女は
ぐったりと脱力して少年に体をあずける。
肌を合わせ、唇を重ね。少しの間、二人は余韻を味わった。
「――なぁ、澪」
キスがおさまるのを待ち、柏葉九輪(かしわば・くりん)は口を開いた。
「そろそろ、どいてくれないか?」
「ん? あ、ごめんね――」
ちゅっと一回唇を合わせ、工藤澪(くどう・みお)は彼の上から身を起こした。萎えか
けた彼のペニスを自分の中から抜き、コンドームを外す。
そのままソファの上で身体を反転させ、彼女はまた九輪の上に身体をかぶせた。彼に背
を向ける格好で身をかがめ、白濁にまみれたペニスを口に含む。
「ぅ……」
射精したばかりの敏感な部分を暖かい粘膜で包み込まれ、九輪はかすかに声をもらした。澪のストロークする動きに合わせ、彼女の小さなお尻が目の前で揺れる。
それを見ながら、九輪は素朴な感想を漏らした。
「なぁ」
「ん? なぁに?」
「お前、ちょっと太ったんじゃないか?」
「えーっ?」
不満そうな声を上げて、澪は彼の上で身を起こした。
「ちょっとちょっとぉ、いくら先輩でもそれは失礼だよぉ」
「そうか? いや、悪気はなかったんだが――」
「もー、そんなこというのはこの口ぃ?」
「うわっ? ちょっ……待て、何を――んむっ!」
身体を後ろにずらし、澪は九輪の顔に腰を下ろした。柔らかい重みで口を塞がれ、九輪
は目を白黒させる。
実際、数ヵ月前と比べると、彼女の身体は少しふっくらとしていた。以前はもっとやせ
っぽちで、肌の下にはしなやかな筋肉しか感じられなかったのだが。
今は適度に脂肪がついたようで、そういった無骨な感触は感じられない。胸や腰も女性
らしい丸みを帯び、柔らかな曲線を形作っている。
「確かに、先輩とエッチするようになってちょっと練習量は減ったけど……でも、体重は
変わってないもん」
彼女だってもう10代前半ではない。身体の成長にあわせ女性らしさが増してきたとい
うことだろう。
「やだなぁ、もう。いつまでも子供扱いなんだから――」
不満そうに鼻を鳴らしながら、澪は九輪のペニスを手で弄んだ。
もう何度も体を重ね、セックスを交わしてきた間柄だ。彼の弱い部分は色々と知り尽く
している。澪の手の中で優しくしごかれ、九輪はすぐに硬さを取り戻した。
「あはっ、大っきくなってきた……うれしいな、ボクの手で気持ちよくなってるんだ」
楽しそうに言って、澪は九輪の顔から下りた。そしてコンドームを取り出し、垂直に勃
ちあがった九輪のペニスにかぶせてやる。
「おい……まだやるのか?」
「うん。だってまだ3回しかしてないもん」
「勘弁してくれよ……」
「だめー」
振り返ってにっこりと笑い、澪は再び九輪にまたがった。
◇
「格闘甲子園」。
俗にそう呼ばれる高校生格闘大会が終了し、一ヶ月が過ぎた。
多くの人間の注目を集めた大会も、さすがに一月も立てば過去の話となる。世間の興味
や興奮もようやくうすれ、激闘を繰り広げた選手たちも今まで通りの平凡な学生生活にそ
の身を戻していた。
優勝者として大会を締めくくった九輪も、その例外ではない。制服を着て学校に通う彼
は、今では苦手な英語と数学に頭を悩ませる平凡な高校2年生でしかなかった。
とはいえ、大会を境に全く生活が変化していないかというと、そうでもない。
あの大会を経て、彼は澪と付き合うようになっていた。学校の、部活の先輩・後輩でし
かなかった二人の関係は、あの厳しい決勝戦を乗り越えたことで急速に深まっていた。単
なる信頼関係を超え、今ではお互いに大切な存在として相手を見ている。
付き合い始めるにしたがって、澪のアプローチは大胆なものになっていった。ずっと好
意を抱いていた九輪がようやく自分を振り向いてくれたとあって、彼女の喜びもひとしお
だ。部活・プライベートを問わず澪は九輪にべったりくっつき、彼を困らせた。
当然、セックスももう経験済みだ。最初は九輪のほうからぎこちなく誘ったのだが、2
回目からはもう澪のペースになっていた。彼女は九輪が自分とのエッチで気持よくなるの
が嬉しいらしく、慣れないながらも積極的に彼を責めたてた。最近はどうも顧問の白上さ
やか(しらかみ・さやか)から色々とアドバイスを受けているらしく、様々なテクニック
を駆使して九輪を驚かせている。
まだ女性慣れしていない九輪からすると、ちょっと辟易する部分もあるのだが――屈託
のない笑顔で「先輩のためだもん」と言われると、何も言い返せないのが実情だった。
ただ、疲れ知らずのそのペースだけは勘弁してほしかった。放課後の練習が終わって部
室で二人きりになると、彼女はほぼ必ず九輪を求めてくるのだ。疲れた体力をふりしぼっ
て相手をしてやると、終わるのが夜中の8時、9時過ぎになることも珍しくない。
1学期が終了し夏休みに入っても、彼女のペースは変わらなかった。自主的に格闘部の
部室に顔を出し、ハードな練習の後に九輪を襲うのだ。
夏休みに入りここ数日というもの、九輪は日中に家に帰れない生活が続いていた。
◇
「ん…………?」
視界の端に気になるものをみとめ、九輪は雑踏を振り返った。
通り過ぎゆく人、人、人。平日の夜とはいえ、市内中心部の繁華街は多くの人で賑わっ
ている。買い物客、バスを待つ人、そして自分と同じく部活帰りらしい学生。
人々はみなせわしく道を行き来し、歩道の真ん中で足を止めた九輪には目をくれようと もしなかった。人の流れは九輪の横を通り過ぎ、とどまることなく流れ続ける。その流れ
に巻かれ、九輪の見つけたものも人波にのみ込まれ、消えてしまう。
「先輩? どうしたの?」
ひょいっと背を伸ばし、澪が下から彼の顔をのぞきこむ。いきなり眼前にアップで迫ら
れ、九輪は思わずのけぞった。
「あはっ、キスでもするかと思った?」
慌てる彼の様子を尻目に、澪はクスクスと笑う。そして首を傾け、九輪の見ていた方角
に目をやった。彼女の身長では、行き交う人の背中しか見えないだろうが。
「何か、あったの? ちょっとびっくりした顔してたよ」
「いや、何でもない」
目を伏せ、九輪はかぶりを振った。別にはっきりと確認したわけではない。人ごみに巻
かれ、「それ」が視界に入ったのは一瞬のことだったし、何かの見間違いかもしれない。
それにもし見間違いでなかったとしても、別に気に留めるほどのことではなかった。
「ふーん、そうなんだ?」
澪は少し怪訝そうに彼の顔をうかがったが、それ以上追求してはこなかった。二人の足
の先にあるバス停に、タイミングよく市バスが走りこんできたからだ。慌てて、澪はその
バスに駆け込む。
「それじゃ、ボクはここで。また明日、学校でね!」
いつものお別れとはいえ、澪の顔には少し名残惜しそうな色が浮かんでいた。バスに乗
り込み、窓側の席から笑顔で手を振ってくる。笑顔を返しながら、九輪も手を振り返して
やる。
バスが走り去って一人になり、九輪は再び雑踏に目を移した。
人ごみの中、一瞬だけ、ちらりと見えたもの。
彼の記憶が正しければ、それは――幼馴染の少女の顔に間違いなかった。
別に、それだけならどうということはない。彼女とは確かに仲は良かったし、親しい間
柄ではあったものの、澪のように恋人同士だったわけではないからだ。
しかし――
少しの逡巡の末、九輪は彼女の姿を追って人ごみの奥へ歩き出した。
自分が見た限り、彼女は何かにおびえていた。恐怖に顔をひきつらせながら、必死で周
囲に助けを求めようとしていた。
しかし結局、彼女は無言のまま逃げるようにその場を走り去っただけだ。周りの人間の
誰一人として、彼女のおびえた様子に気付いてはいないだろう。
何があったにせよ、放ってはおけなかった。
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