宣教師から譲り受けたと言われる真紅に色どられたシルク地の布団の上、幼名、影法師虎丸は深い寝息を立てていた。
揺りかごのようなベッドは長崎にてイエズス会より伝わったとされ、のちにフロイスはこう語っている。
(此のベッド、まるで猫の鳴き声のようにも成りる。木馬ベッド或いは猫ベッドとなして高貴な方々に使われ候)
その名に似つかわしく、虎丸は自身の体重で深く沈み込んだようにマットに埋もれ、ベッドの下、緩やかに弓なりに反った台座は木馬を連想させた。そのベッドは少し力を加えると前後にユラユラと揺れ、そのたびに犬猫のような軋み音が鳴る。
「どうじゃ?、、、姉上さま、、これはのォ、、、あの、えげれすから伝わったものぞえ、、、、ほんに猫の声のようじゃァ」
北ノ庄城の三階廊下の一番奥、引きひもを引くと隠れ階段が現れ、天井裏ともいえるその部屋はこうして拉致してきた者の幽閉場所になっていた。普段は使われることのないこの部屋を侍女達は姫事之間と呼んでいた。
「まっこと、、、可愛いらしゅうのォ、、、名家松平の血を引いておるだけに、、、とろけそうな顔をなさっておる、、、、、、しっかし、、
殿方を縛っていくとはのォ、、、、はァン、、、、わらわはこの時が一番うずくんじゃ、、、、姉上もそう思わぬかえ?」
双子の妹、百合姫は自分の薄着物の帯を虎丸のまだ太いとはいえない手首に巻きつけながら姉である椿姫に言った。
「百合や、、あまりにきつく縛ってはならぬ、、、快感のあまり殿方は暴れ申されるゆえ、、、勝手に帯が締まっていき申すゆえ」
「ハァん、、、、姉上、、、そないに不埒なことォ申されるなァ、、想像してしまうではないかァ、、、アン、、はよぅ縛ってしまいたいのォ」
百合には姉の毅然と座したままの素振りが信じられなかった。ここにきてもまだそのようなことを申されるか、、、、、
虎丸の両腕を伸ばし帯を巻きつけるたび、顔と顔が近くになり、彼の発する甘い息が百合姫の頬に当たった。
「アン、、そのような息、もぅ、、、もう、、がまんできませぬ、、、、ペロッ」 「これ!、、、、まだ両足が残っておいでであろう、、、」
虎丸の顔を小さい舌で舐めた瞬間、隣りから椿の叱責が飛んでくる。
まったく、、、姉上はなにもせぬのに、、、、、、少しは手伝ったらどうじゃ、、、、最近母上によう似てきましたのォ、、、、、、
百合はそう心で思いながら両足も縛っていった。大の字に拘束された虎丸はかすかな呻き声をあげるがまだ眼を開ける気配はない。
姉の椿を見るが自分と違い欲情してる様子はない。しかし彼女は知っていた。意地悪な顔をした百合は椿の着物に手を指し入れた。
「姉上ぇ、、、そのように燐と座したままでもこの百合はみなお見通しじゃぞォ、、、、、、着物の、、、、なかは、、、、、ほれぇ、、、」
「なっ、、、、、なにをなさるっ!、、、アン、、、やめたもう!ンッ!」 「ほぉれ、、、この糸をひいたものはなんじゃろのォ?、、、」
着物で隠れてはいるが切れ上がった小股から抜き出した百合姫の中指とひとさし指の間には糸の橋が架けられている。
正座をしたままの椿の小股からはおびただしい愛液が流れ出て、畳を濡らしていた。
「もう触れられただけで、、、昇天してしまいそうなほど熱くなっておるのにィ」 「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
双子とはいえ由緒ある武家がそうさせるのか、椿は妹に見られてはならぬものを見られた気がして顔を赤くした。
「姉上は肩肘を張りすぎるのじゃァ、、、、いつもいつもそのような堅い顔をなさってぇ、、、この百合が着物脱がせたもう、、、、」
「や、、、やめるのじゃ、、、じ、自分でするゆえ、、、いい加減にしないと、、」 「いい加減にせんと、、、、なんじゃァ?ンフフ」
百合は椿の着物の肩をパックリと押し広げた。幾層にも重ねられた反物がまるでその中に入った宝石を守るよう開かれていく。
熱を持った透き通るような柔肌がぽっくりと出て、蝋燭の炎にツヤとなって光る。
肩から下にある鎖骨がうっすらと汗を掻き、濃縮した甘い香りがほんのり上気し、間全体に漂った。
「ほんにィ、、、、姉様の肌は飴菓子のようじゃァのォ、、、、ペロォ、、、チュッ、、、ン、、おいし、、、こんなにィ、はだけさせてからにィ」
片側だけ露出させた艶やかな肩先を、百合の舌が小刻みに舐めていく。
「ン、、、ンッっ、、、アン、、、やめたもう、、これ、百合や!」 「したらば、なぜかのォ?、、なぜにこのように濡れておる?ン?」
唇と唇がゆっくりまぐわっていく。百合は手の平で姉の体をことさらゆっくりと撫でつけていった。
正座をしたままプルプルと震える火照った体は抗おうにも抗いきれたものではない。
椿の肉体は川の流れのよう自然なまま、百合姫に身を預けるようにしなだれていく。
「ふ、、双子で、、、こ、このようなことをするなぞ、、、ン、、、ン」 「姉様のからだ、、、、、溶けるようじゃぞォ、、、チュパ、、、ン」
その時、虎丸が薄く眼を開けた。身をよじらし接吻したままの二人の姫の視線は甘い放線となり彼に注がれる。
「な、、、なんじゃ?なんなんじゃこれは!?、、、、その者、、、、ここはどこか言うてみよっ!、、、我は影法師虎丸なるぞっ!」
幼い声質が抜けきれない悲痛の叫びは二人の姫をことさら欲情させていく。百合は彼を覗き見るように首を伸ばした。
「なんとまぁ、、、かわゆい声じゃのォ、、、虎丸殿と申すか、、、、、虎とはまた、、、、、かわゆい虎もおったもんじゃ、、、、ンフフ」
椿は身を直し虎丸に向き直る。
「そちは、、、、この柴田の質になられたのじゃ、、それもこれも家康様がはっきりせぬからゆえ、、、恨むなら父上様を恨むがよろし」
「し、、柴田じゃと!?、、い、嫌じゃ嫌じゃァ!、、、、わしは家に帰るのじゃ!はようこの帯をほどかぬかぁ!」
小さい体をバタバタとよじってはみても帯はきつく締まっていくだけだった。
「虎丸殿も分からぬお子よのォ、、、いまは群雄割拠の戦国の世、、、かような時代なればそのような戯れ言、、笑われますぞ、、」
椿は子供を叱りつけるような燐とした口調で言う。
「もっとありていに言えば、、虎丸殿とわらわ達の内、ひとりでもおなかにやや子が出来れ申せば徳川家との盟約は固いものになりましょうて、、、、、どうじゃ?分からぬか?、、、そのような幼なさゆえども、、、やや子の素は持っておいでじゃろうォ?、、、クスクス」
「グスン、、、、か、、帰したもう、、、、、、お姉様方、、、われを帰したもう、、、、このような事は嫌じゃ、、、、グスン」
「あらあら、、、泣いてしまわれたのかァ?、、殿方ともあろうお人が、、、よしよし、これから天にも昇る思いをさせてしんぜまう」
この当時、戦は大軍同士でも戦死者は驚くほど少なく、あの双方10万近い兵を出した関ヶ原の戦いでもその数は数千人と言われている。それはお互い陣を構え、全ての兵力を同時に投入することがなかったからだろう。
また、ある程度一方の兵力が消耗した場合、必然的に降伏、投降案が浮上し、余計な人命の摩耗を防ぐのが人道であったからだ。
元々農民あがりの下層兵は進んで死にたいはずもなく、どちらか一方の主将を討ちとった時点で雌雄は決する。
不慮遭遇戦、、、、、、、これが当時、兵を指揮する指揮官にとり最も恐ろしいことであり避けねばならないことだった。
(戦は突然開始され、双方入り乱れ、そして訳が分からなくなった) この戦で上杉軍の組頭はのちにそう書きしるしている。
秀吉が布陣する長浜城から見える中山道はその日、未明から濃い霧が発生し、それは遠く岐阜城あたりまで続いていた。
それは、小規模ながら魚鱗の陣を形成する稲葉一鉄が指揮する織田方3000と、行軍中である上杉軍3500(武将は定かでない)が対峙することもなく弓隊同士、ふいに、すれ違いざま交戦しあったところから始まった。
悪いことに織田方、飯井取綱隊1400が側面からそこに突っ込むことになり、自体はさらにひっ迫した。
お互い予期せぬ方向から突然やってきた敵兵に辺りは混迷を極め、指揮系統が破綻をきたす。
当時、既存の兵は最小単位5人で形成されその中で最も経験のある者を班長(今でいう伍長)さらにそれらが4つ合わさった組(約20人をまとめる組頭)さらにそれらが4つ合わさった層(約80人をまとめる層長、この者には組頭伝令が2、3人随行していたと思われる)
さらにこれらが4つ合わさった軍(約320人程を一括する軍長)さらにこれらを4つ合わせた侍(約1300人の部隊全域を監視、機動させるいわゆる侍大将、通常、名のある家督が任務にあたる)この者に指示を出す武将がいて初めて部隊として機能していた。
それは10メートル程まで近づかなければ目認できなかったため、魚鱗の陣の真横を突かれた稲葉一鉄隊がまっ二つに割れる。
双方、中盤から後衛である騎馬隊、槍隊、鉄砲隊が動きがとれず、やがて恐慌状態となり壊走しだすが、敵味方入り乱れた遭遇戦はそのまま他の隊にも飛び火した。
特に騎馬隊の乱れようは凄まじく、濃い霧のなか、一度隊が崩れると収拾するのは難しかった。
「敵方じゃと!!?、、まことの物見かっ!?、、ええいっ!馬を静められよっ!!、、、、みなの者ォっ!落ち着けィ!!」
「各は侍大将殿、方々で討ち取られ候っ!、、、、、後詰めの隊に被害ありとっ!藤丈の西へ移動せしりっ!!」
「なにをしておるのじゃっ!!、、、、、後詰めは動いてはならぬっ!!、、なっ!!?、、なぜゆえ鉄砲隊が前に出ておるのじゃっ!」
上杉方、前田慶次郎率いる隊2200と柿崎影家率いる騎馬隊3100はなんとか難を逃れるが、他の隊はことごとく混乱をきたしていく。
織田方、佐々成政の隊の後方をかすめるように敵方の槍隊が無秩序に突き進んでゆく。
どちらの隊も気づくことが出来ないほどであったとされるから視野の悪さが窺えよう。
「討つなぁっ!!、、、あれは敵方ではないわっ!、、、壊走してくる味方じゃァ!!、、、者ォどもぉっ!聞こえぬかァ!!」
あらゆる方向から飛んでくる敵味方の弓矢に兵はパニックを起こし、霧のなか、突然疾走してくる味方兵をも突き倒す。
鉄砲隊は、ほぼ無力に等しくおよそ敵方がやってくるであろう方向に乱射するのが精一杯だった。
聞こえるはずのない敵の戦太鼓が突然後方から聞こえ、大きな渦のようになった敵味方が混じり合うさまは地獄絵図そのものだった。
「家紋旗をなぜゆえ見ぬっ!!、、味方ではござらぬかァっ!!、、ええいっ!者ォどもぉッ!!落ち着くのじゃァ!!!」
「隊が合い乱れ候っ!!、、、荷駄馬隊、敵方の真っ只中にて、、、、壊走しておる模様っ!!、、、、帰参の命をっ!!」
「なっ!!!、、、、、、あの隊は丸裸であるぞっ!!、、、、我が長槍の隊共はどこぞにおるのじゃァっ!!」
織田、柴田、双方、前哨戦と捉えていた為、総兵力26000と22000の戦自体さほどのものでもなかったが、その死者の数はあまりにもおびただしかった。また、その兵力の3割強は後方支援(食糧、弾薬、工作物)に充てられており無防備に近い。
通常、こうした不慮遭遇戦は起こり得ず、双方陣を敷き、兵を鼓舞したあと戦法螺貝の指示の元、各部隊が規律よく対陣していく。
金ヶ崎の退き口戦が史実では最も大きい遭遇戦となってはいるが、これは追う側追われる側がハッキリしており、ここで言う不慮遭遇戦とは合致しない。
その頃、2.5q程離れた上杉方の本軍はゆっくりした足取りで隊列を成していた。
「なんじゃ、、、、、前の方が騒がしいのぉ、、、、、、、、、、、、、、?、、、、、、、、、、、、、、、、まっ!まさか」
上杉方の軍団長である滝川一益はこの時、まだ伝令を聞いていなかった為ますます善処が遅れをとったとされる。
偵察隊である物見馬が双方から出てはいたが、この深い霧の中、見聞が遅れたことが原因だろう。
今になりやっと早馬が本陣に帰したが、背中に矢を貫いた兵は息も絶え絶えだった。
「グハッ!!、、、、で、、、、伝令っ!、、、伝令申すっ!!、、、、、くっ!」 「遅いわっ!馬鹿者がっ!、、、、」
「両軍っ!、、藤丈の山道にて、あい対し候っ!くっ!、、、、先発隊、寛大なる被害ありきっ!」 「よいわっ!、、下がれっ!!」
なぜゆえ稲葉の隊がこのような所まで、、、、、、あの禿げネズミめ、、、、、、、、、出し抜きおったな、、、、、、
織田方、軍団長である羽柴秀吉は同じ頃、長浜城の小高い丘からこの模様をあくびをしながら見ていた。
俯瞰視で見てるため、濃い霧でもある程度の戦況は把握できた。鼻くそをほじった秀吉は駆けつけた物見に眠た気な視線を送る。
「ハァハァ、、報告しまするっ!!稲葉一鉄隊、及び飯井取網隊、、壊走せしりとのことっ!!ハァハァ」
「ありゃりゃァ、、、、こげんなこたァなるとはのぉ、、そぉっとよぉ、そぉっと柿崎の後ろに回りたかったぎゃァ、、、まァ、、いいべさ、、
そんだけ息切らしてさァ、、あんたァ、、ご苦労さん、、まぁお茶でも飲め、、、ほれ、、しっかし滝川殿もやるこたぁ昔と一緒だぁね」
この男、こうなることは当に予見しており、全ての作戦立案がパズルのように正確に組み合わされていく。
しかしそれは、、、のちに起こるであろう、、、人類史上最大の不慮遭遇戦の始まりに過ぎなかった、、、、、、、、、
続きたもうぞ