謎の中華屋           (1)

                                            作:テンちゃん  

 
俺が高一の頃してたバイトがある。
それは高級中国料理店とラーメン屋のちょうど半分くらいの店構えで、サラリーマン連中が仕事終わりちょいと一杯ひっかけて
いくこともできつつ、一人で定食なんかも食べられることもでき会社の宴会なんかにも使われる店でもあった。
 
二階が宴会場とトイレ、一階が厨房と数席の客席、と、まぁどこにでもありそうな店だった。
 
バイトしてから解ったのだがその店は本店、支店となにやら数カ所に店舗があるらしく俺はとりあえず札幌近郊にあるいかにも
中国料理の店ですよここは、というような赤や金のピカピカした看板の店に配属、ということになった。
 
そこには専用のユニフォームがあってそれをここに勤めるアルバイトの者は全員着なければならぬ決まりだった。
アズキ色の七分袖の上下、同じくアズキ色の三角巾、そしてピンク系の前掛けはまだ若い男の俺にとってかなりの抵抗があった。
 
そもそも、そのユニフォームなるものは女の子用しか揃えられておらず比較的体格のいい俺なんかが着るとどこかの遊園地にいる
キャラクターみたいに滑稽に見えた。
 
「あは、、、、、あはは!、、、、ぬいぐるみ着てるみたい、、、かわいいじゃん!、、、、、」
 
そう言ったのはこの店でバイトして数年目、という通称チャー、という目の美しく、スタイルのいい22歳の女の子だった。
 
この店には正規社員以外には女の子しかいない、ということが入ってすぐに気づくことになり俺は辞めようと思ったが仕事終わりに
提供されるマカナイ、というものにひどく魅力を感じブツブツ言いながらその日も支給されたユニフォームを着込んでいた。
 
「これ、、、、、、男用とかないんスかね、、、、、、この色とかって絶対女の子用だと思うんスけど、、、、」
 
「ここって貧乏だからさぁ、、そんなこと、店長考えてないんじゃない、、、あはは!それにしてもうけるよね」
 
狐顔のいかにも金にうるさそうな店長の顔がすぐに浮かびあがり、俺は確かになぁ、と思った。
1分遅刻しただけで時給まるまるカットされたのよ、という話しを俺はバイトの女の子達から聞いていた。
 
「聡くんって、、まだ高校生なったばかりだよね?そしたらケイちゃんより若いんだぁ、、、ケイちゃん今年卒業って言ってたものね」
 
チャーちゃんはなにか思い出したような表情でそう言ったが、俺はすぐにケイちゃん、という女の子の顔を思い出せずにいた。
 
「そっかそっかぁ、、、ケイちゃんとは曜日違うもんね、、まだ会ったことないんだぁ、、、、ンはは、、、、、そっかぁ」
 
彼女はそこでまた思い出したような顔になり不思議な微笑を浮かべながら、いらっしゃいませぇ!といつもの話し声とは違う透き通った声でオーダーを取りに行った。
 
このチャー(以下チャーちゃん)という女の子が基本的には一番年上であり、なおかつバイト歴も長いということで一応店長、及び
バイトをしてる女の子達からは尊敬と信頼を寄せられてるようだった。
 
チャーちゃんに後々なんであだ名がチャーなの?と聞いた記憶があるが、ヒサエ、という名前のちょうど中間の文字、サ、から
発展してサーが、チャーになったという説と、昔ちょっと悪かった頃かなりの茶髪だったことから茶色のチャ、からチャーになったという説があり結局明確な答えが解らなかった気がする。
 
高校の頃の俺はこのチャーちゃんがひどく激しく大人の女性に見え、なにかアジアン的、インド的な魅力を発するその瞳と
少し浅黒い肌がアルコールで火照ったときなどとても綺麗に見えた。
 
この店では大きな宴会などがあった日など{反省会}と称して閉店後、社員を交えてお互いの労働を讃え合う、というようなことを
していた。
 
「聡くん、、、、、未成年なんだからさぁ、、、、飲んじゃダメよ、、、飲みたいんだろうけど、、、ンフフ」
 
そう言いながら甘い匂いのする杏子酒などを飲むチャーちゃんは俺が今まで体験したことのない絶対的な女性らしさ、とういうもの
を醸し出していて、隣りでバカ面のまま炭酸飲料などを飲んでいる俺には別次元の女の子に見えた。
 
彼女は飲み過ぎると瞳がトロンとしきて、その丸みを帯びた小さな肩や首筋から悩ましいほどのフェロモンを揮発させながら、つまんないなぁ、もう何もかも終わっちゃえばいいいのに、などど自虐的なことを言ってくるかと思えば、あのさ、ちょっと聞いてくれる?
ううん、やっぱりいい、、、、いいから、、、あたしってダメだな、、、などとひどく意味あり気な表情を浮かべる時もあった。
その後必ずと言っていいほど、ンフフ、ごめんね、こんな話ししちゃって、もっと楽しい話ししないとダメだよね、とヤワラカク優しい表情でつぶやいた。
 
俺はバカ面に付いたバカ頭をフル回転させこのような綺麗な可愛い女の子もそれなりに切迫した悩みがあるのだろうなぁ、と彼女の半分酩酊したシナダレ姿を見ながら思った。
しかし、まだ高一の俺にはそんな彼女をどうこうする気概も意気地もなく彼女の憐れみにも似た柔らかくホンノリした優しい顔を見てるしかなす術がなかった。
 
とはいえ高校の頃かなりヤンチャだったのは事実らしく時折その片鱗、というものを塊間見ることがあった。
普段、優しい笑顔を絶やさず周りの子に対しても気遣いができるチャーちゃんがある日、例の狐店長と喧嘩していた。
 
「それはないよ、そしたら何人休みになっちゃうの?」 「だから前から言ってたじゃないですか!、、その日やばいですよって!」
「君がちゃんと管理してればこうゆう事なんないだろ!」  「なんでそれあたしの仕事なんですかっ!?だったら私辞めますよっ!」
 
連休前、なにやらバイトのシフト的な事で揉めてるのが理解できた俺はチャーちゃんの背後に駆け寄り仲裁に入ろうとした。
 
「あ、、、あの、ちょっと、、、まぁ、、お客さんもいることですし、、、」  「あんたは黙ってなさいよっ!!」
 
今にも平手打ちが飛んできそうな眼光には迫力があり、高一の俺はおずおずと後ろに身を引いた。
 
客がいようがいまいが俺には関係なかったがチャーちゃんには辞めてほしくなかった。「いいから向こう行ってなさいよっ!」
その目はキッと尖りながら怒りに満ち、触れたものは全て怪我するわよ、というような闘気に燃え、一瞬俺を睨みつけると素早く狐店長に振り返った。
 
「いや、、、さ、、、それとこれとじゃ話しが違うでしょ」 「なにがどう違うんですか?ちゃんと解るよう説明してください!」
 
チャーちゃんの大声の半分は涙声で、そのせいか辺りがピーンと張りつめ、そこだけ何か空気が止まったような感じがした。
 
狐店長はかなり動揺してるらしく無言のまま注文の天津飯の材料である卵を、これでもか、といった具合に掻き回し続けていた。
その後の沈黙は俺にはひどく長く思えたがチャーちゃんを見ると視線を反らすことなく少し涙の溜まった大きな瞳で狐店長を凝視し続けてるのが解った。
 
「あー、、わかったわかった、、、なんとかするよ、はいはい」  「なんとかしてくださいよ!、、そんなの!!、、、ばか」
 
最後のバカ、とういうセリフは振り向きざま言ったらしく換気扇の音なんかでうるさい厨房のなか店長には聞こえてないようだった。
そう吐き捨てるとチャーちゃんはトイレに行ったらしくしばらく帰ってこなかったが、10分位して一階に戻ってきたチャーちゃんの顔
はいつものようにアジアンビューティな感じで穏やかだった。
 
俺は何を喋っていいのか分からず目下、溜まった食器を懸命に洗っていることにした。
 
「あのさ、、さっき、、、、、、、、、、、、、、なんかごめんね」 俺のそば、皿洗いを手伝いながらチャーちゃんはそうポツリと言った。
 
それは怒りすぎた姉が、ものわかりの悪い弟に言うような感じで、俺の中でより一層大人の女性を彷彿とさせた。
 
「あ、、あの、、俺、、出てもいいっスよ、、連休なんてなんもすることないし」 「いーよいーよ、、あのバカ店長のせいなんだからさ」
 
そう言った彼女の顔は不思議と表情がなく、美形の顔が冷たく澄んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この店は大体常時アルバイトを3人は出勤させ二階に一人、一階に二人といった案配で配置させていた。
そしてどの業種でもそうだと思うがゴールデンコンビと呼ばれる、つまりこの二人が勤務してる時は極めてスムーズに物事が運ぶ、というメンツがここにも存在していた。
 
ユンユ、と呼ばれるちょうど20歳の彼女は看護士専門学校に通いながら時間の空いた時にここにバイトにきていた。
本名はゆき、か、ゆいだと思ったがとにかくここではユンユ、と呼ばれていて誰もそれ以外の名で呼ぼうとしなかった。
栗色の髪は長いのだが少し猫っ毛で、ポニーテールにするとフサァフサァと背中の後ろでゆったりと絡まり合う、というのが俺には
素晴らしく女の子らしく彼女に似合うように思えた。
ぱっちり開いた瞳も猫みたいで、なぜか黒目が果てしなく茶色に近い色を放っている不思議な感じの女の子だった。
俺はまたしても、なんかユンユさんの目って、、茶色っぽいですよね、などとバカな質問をしたが、そう?別に、、カラコンとかは
入れてないんだけどね。そんな人の目とかばっか見てないの。やだなぁ。と、なぜか怒りながらも嬉しそうな笑みを浮かべていた。
 
チャーちゃんとは違う肌の白い女の子でアズキ色のユニフォームが劇的に似合っていた。
厳寒の北海道の広大な大地でスクスクと育ってきた子らしく透明感のある肌と整った顔立ちからは優しさだけではなく毅然とした
誠実さ、といったようなものが感じられナチュラルメイクの眉毛がオンナの激烈なる情愛、というものを醸し出していた。
しかし一旦笑うとその母性に満ちた表情はこの中華屋にいる全従業員の心を溶解するよう和ませ、彼女がシフト入りした日は
なにか店全体がほんのりとした華やかさに包まれるのが体感的に解った。
 
そのスマイルと合いまり、店に来る客にも絶大な人気があった。狐店長もユンユに対してだけは特別扱いしてるように見えた。
それが原因か、それともあまりの綺麗さなのか他のバイトの女の子達は彼女と距離をとってるように俺には見えた。
しかし、それが原因でお互いどうこうする、ということはなく、女の子同士、表面上はうまくやっているようだった。
 
そんなユンユだったがチャーちゃんと組む時はなにかすこぶる呼吸が合うらしく、俺などが必死になって駆けずりまわってるのが
嘘みたいにスムーズに店をまわしていってた。
ユンユって看護士目指してるだけあって気がつくのよね、色んなことにさ。そうチャーちゃんが俺に言ったことがあったけどそれは
あんたってホント細かいこと気づかない男の子だよね、と言われてるようでもあった。
 
 
 
 
 
 
 
 
この中途半端な謎の中華料理屋は午後2時で一旦店を閉め、再び午後5時からオープンする。
従ってこの空いた3時間が休憩になるんだが、正規の社員は自分のアパートなり寮なりに一旦帰り休憩していた。
しかし、俺の家は遠く一旦帰って再び出てくる、というようなことは物理的にも非常に不便だった。
 
このようなこともあって夏休みの間だけ特別、俺は空いた休憩時間を二階の宴会場で寝てる、というストイックな真似をしていた。
店長いわくその方が防犯上もよい、ということだったので俺はクーラーをガンガンに効かし自由に飲んでもよいソフトドリンクなど
飲みながら買ってきた週刊マンガ片手に夏休みを満喫していた。
 
ちょうどお盆も近いある日、その日は夏期休校ということもあって普段夜しか入らないユンユもバイトに来ていた。
いつものように店を一旦閉めた後、ゴールデンコンビであるチャーちゃんとユンユがこう言った。
 
「いいな、、聡くんは、、あたしも家帰るの面倒なんだよなぁ、、、どうせまた出てこないといけないしさぁ、、、あたしも寝てこっかな」
 
「そうだよね、、、チャーなんか微妙にお家遠いもんね、、、チャーが寝てくんなら私もここで休んでいこっかなぁ」
 
それを聞いた正規の社員一同(男3名)は一斉に目の色を変えゴールデンコンビに迫った。
 
「おいおい、、、ま、、いーけどよぉ、、、、変なことすんじゃねーぞ、、、おまえら、、、、、高校生あいてに」  
 
「やだぁー、、、そんなことするわけないじゃないですかぁ!やめてくださいよ!、、、ちゃんと離れて寝ますからぁ!」
 
と、チャーちゃんはなぜか大袈裟に笑ってみせていた。
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