峠                   (3) 

                                            作:テンちゃん  

 
                                             <鶴ヶ岳連峰 鶴山展望台 >
 
いつ誰が書いたのか判然としない字が汚らしい板に書かれ、今にも倒れそうなほど傾き、なんとかそこに立っていた。
 
展望台、とは名ばかりで数台しか停められない駐車場と、お化け屋敷みたいな茶屋がポツンとあるだけの場所。
はるか彼方、小さい街の明かりが漆黒に揺らめいでいる。ここまで来ると気温も相当違うらしく真夏の夜とは思えない夜風が俺の
顔を撫でていった。
 
バイクが5台。ミニバン2台。それぞれがこうあるべき、という並び方で規則正しく停められ次々と女の子達が降りてくる。
単車に2ケツしてた子も含めたら全員で14人位はいるだろう。
もう誰がなんだか分からない具合で同窓会のような嬌声があちこちで聞こえてきた。缶ビールを飲みちらかし、酔ってる子さえいる。
それは、この暗く重い展望台に不釣り合いで、この場所だけ温かい光が射したようにも見えた。
 
「こっちのサス弱くってさァ、、、もう疲れたぁ」  「あ、、、あたしにもビールビール!」 「帰り、、、あたしバイクねぇ!」
「ふざけんなよテメー!、、、あたしの単車から降りろよ!」  「あ、、今日スペシャルドラマ予約してくんの忘れたァ!」
 
俺はせめてさっき車内で起きた事は、その車内でだけにとどめたかったが、そうはならなかった。
 
「もうさ、、、我慢できなっくって、、、こいつ、、さっそく食べてやんの」 「マジでぇ!?」 「ちょっと、ちょっとぉ、、、言わないでよー」
 
言わないでよ、と言った上斗あや子似の女の子もまんざらでもなさそうな顔をしている。
 
一番初めに俺に声をかけてきたリーダー格の子がメットを取ると、もう一台のミニバンにそっと声をかける。
改めて見たが相当な美人だった。たしか女優で似たのがいたはずだ。大雪だっけ?小雪でも中雪でもなく大雪似だった。
ライダースーツから一部見える肌は白く、この真夜中でも光って見える。その目はスゥーと切れ長でレディースの頭としては
充分な威光を放っていた。
その証拠に馬鹿騒ぎしている女の子達も、この人だけは別格です、と言わんばかりに一目置いているのが分かった。
 
「降ろしてあげな、、、、、、、、」    「は、、、はい、、リーダー、、、、、、こいつ暴れたんでまたボコっときました」
 
昔の刑事ドラマの人質みたいにロープでグルグル巻きにされた男が車外に放り出される。
その顔はボコボコに腫れ、唇が切れたのか赤い筋が垂れている。
 
ここにきてもう一人、俺と同じような境遇の人がいたんだ、という安心感と、自分と違い、激しく痛めつけられている様子に複雑な
気分になってくる。
 
大雪似のリーダーは倒れた男の前まで来ると優しい顔のまま、剥きだしの腹部を蹴りあげた。  「ぐっっ!!!、、、、フっ!!!」
 
「女漁りばっかしやがって、、、、、、、よくも仲間に手ぇ出してくれたね、、、、、、あの子、、、どんな思いしたか、、、」
 
冷静沈着な感じの大雪リーダーからそんな言葉が出てきたのを聞き、やっぱり自分はレディースの中にいるんだ、ということが
再確認、再検証できた。
 
今までザワザワしていた他の女の子達も一瞬でシーンと静まり返り、事の成り行きを見守っている。
 
俺はどうしてればいいか分からず、とりあえずその男に近づいていった。   あれ、、、、、、、この人、、、、、この人ォ!!
よく見るとその人は地元では知らない人がいないほどの有名人だった。
 
「た、、、、卓志さんですよね!?、、、、、、た、、卓志さん、、、、、、、やっぱり卓志さんだ、、、、、、、」
 
俺らのあいだでは、ある程度、地域に名を馳せた先輩を必ず○○さん、と呼ばなければならず、この人もまたバイク仲間では
有名な人だった。確か、ふたつ上で実家が小さいながらも車の修理工場だったはずだ。
峠のタク、とか、ぶっこ抜きのタク、とか言われていた気がする。
でも、その卓志さんがなぜゆえこんな無様な格好で拘束され、リーダーとはいえ大雪に蹴られなければならないのか解りかねた。
と、同時に今、卓志さんと知り合いだ、ということを発言した自分を激しく呪った。
 
「へー、、、知り合いなんだ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、フフ」
 
大雪リーダーはその冷たくも美しくも感じられる流し目で、不思議な笑みを浮かべたまま俺を見すえてくる。
 
「い、、、いや、、、、知り合い、、、、とか、、、そうゆう感じではなくって、、、、、、先輩というか、、大先輩というか、、、まあ、、あの」
 
卓志さんは腫れた目で俺を一瞬睨んでくる。○○さん、と呼ばれる方々は総じてそれらに付随する仲間も多く、後々なにをなされる
か分からない不安がムクムクと沸き上がってくる。
とはいえ、あまりにもどちらかに片寄った発言は自分自身を危機にさらすようなもので微妙な舵取りが要求された。
 
「あんた有名人なんだね、、、、、、ハハ、、、格好わる」  「う、、、、うるせぇ、、、、、、、、このアマが、、、、、、、っっぐ!!!!」
 
さらに今度は靴のつま先で蹴ったようで、卓志さんは芋虫みたいに苦しんでいた。周りの女の子達が小声で笑っている。
卓志さんは数秒苦しんだあと俺に向かって言った。
 
「お、、、、おまえ、、、こいつらの仲間か?、、、、、、、、、あとで覚えておけよ」  「喋んじゃねーよ、、、、くず男」
 
今度はリーダーとは違う女の子が背中を蹴る。まずい。このままでは果てしなくまずい。究極的にまずい。
俺は慌てて言おうとしたが、大雪リーダーの凍てつくような眼差しが横から刺さってくるのを感じた。
 
「え?、、、ち、、違いますよっ!、、いや、、、成り行きで、、、、、、、ついさっきまで缶コーヒーを飲んでて、、、、、峠道で、、、
この人達と合流したわけでして、、、、いや!合流というか、、、拾われたというか、、、、、そ、、、そうだ、、、ガス欠ですよ!、、、
つ、、つまり昌樹がガス欠で!、、、、、、降りるんじゃなく登ってて、、、、、ホントっすよ!、、、峠道をですね、、、、あの」
 
多分、なにひとつ伝わっていなそうだった。急に大雪リーダーが俺の頭を自分の方に引き寄せたかと思うと頬にキスをした。
 
「チュ、、、、、そ、、、、、、この子さ、、前っから仲間なんだよね、、、、、、、、、、だからあんた達のヤってることなんてすぐ分かるの」
「な、、、なに言ってんすか!?、、な、仲間だなんて」  「あれ、、仲間じゃないんだ、、、、そしたら敵なのかな?、、、、ン?」
 
周りの眼光が女狐のように光ったのが分かった。殺気立っているのを肌で感じる。 
 
「いや、、ま、、、ある種、、仲間っちゃぁ、、仲間ですけど、」 「そうだよね、、イイことしてあげる代わりにいっつも情報くれるもんね」    
「テメー、、ほんと覚えとけよ、、、家まで追い込みかけるからな、、、」  「そんな、、情報だなんて、、、、、さっき会ったばっかり、、」
「大丈夫よ、、、、あたし達が守ってあげるから、、、、、」   「レディース風情がイキがってんじゃねーよ、、、、がふっ!!!!」
 
蹴られる卓志さん。俺はすぐに次のことを考えた。引っ越し業者はどこにしようか。最悪、どこか遠くの寮生活でもいい。
親にはどう説明しよう。昌樹とももう逢えることもあるまい。俺の単車はどうなる?もういい、、、、、バイクはたくさんだ。
田舎でひっそりと暮らそう。ゆくゆくは農業でもして年金をもらいながらゆっくり暮らそう。
 
「じゃ、、、そーゆーことで、ここにいるみんな欲求不満だからさ、、、、自分のしたこと、、、せいぜい後悔しな」
 
タイミングよく茶屋のシャッターが開く。どうやらこの中にいる女の子の誰かの親か親戚の所有物らしく、慣れた感じでゾロゾロと
みんな入っていく。卓志さんもまた、数人の女の子に引きずられるように中に連れていかれた。「やめろっ!、、離せっ!!」
 
最悪だ。超最悪だ。山の頂上、一段と冷たさを孕んだ夜風が俺のそばを通っていった。このまま帰って寝たい。全てを忘れたい。
 
「なにしてるの?、、、、君もくるのよ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
 
最後まで残っていた大雪リーダーが、優しい流し目のままで俺につぶやいた、、、、、、、、、、、、、、、、、
そりゃないっスよ、、、、、、、、、俺も心の中で、、、、、、そう、つぶやいた、、、、、、、、、、、、、、
 
  
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