クイズ100人に聞いちゃいました  (1) 

                                            作:テンちゃん  

 
「おいおい、そこ、うるせーって!静かにぃ!えー、ではですねぇ、さっそくなんですが、本日、実に30校以上からスタジオにお集まり頂いた女子高生のみなさんへ質問の方開始させて頂きます。よろしいでしょうかね?パネラーの皆さん」
 
階段状の座席からは今だ私語が止む気配はなく、果たしてこのまま放送を無事に終えることが出来るのか、という不安が司会者、
直樹の胸中をとらえていた。
 スタジオ入りした直後こそ、物珍しさも手伝い半ば緊張した面もちの女子高生達だったが、お笑い芸人の前説を境に独壇場の
様相を呈してきている。
 
直樹は男性アイドルのリーダーを勤めながら、ここ最近ではその明るさ、喋りのうまさも手伝い、こうした司会業も兼任していた。
 
「じゃ、はやく始めろよォ!」  「ホント、うざいんだけどぉ」  「暑くなぁい?このスタジオー!」  「お金ちゃんとくれんの?」
 
女子高生と生放送は御法度。
しかし、この時間帯をターゲットにした化粧品メーカーのスポンサーの強い意向もあり、テレビ局サイドとしては久々の高視聴率
獲得のために断る理由などどこにもなかった。
通常、こうしたインタビュー形式の番組は、ほぼ例外なく収録撮影される。まだ若い女子高生が万が一、問題発言などをした場合、
それは即、放送事故として扱われ、局側にも寛大な被害が出るからだ。
 
直樹は質問してからの結果を受け、スタジオ入りした彼女達に、どうして?と振らなければならない立場にあった。
 当然、モデル志望の(さくら)を数人もぐり込ませてはいる。カメラに映しだされる女の子、インタビューに応じる女の子は事前に
ある程度の打ち合わせをしており、この子達が基本になるのだが、時として彼女達をもしのぐ可愛い素人がいるのもまた事実だった。
 
今日はなんて素材がいいんだ。始めこそそう思った直樹だったが、次第に秩序が無くなっていくことへの不安感が今はまさって
いた。
 その、抑え役として自称、占い師の年輩パネラーが声を張り上げるも、会場は女子高生の放つ熱気を吸収できずにいた。
 
「あなた達ねぇ、、、、いい加減にしなさいよ!、、、、こんな未熟な子供達が母親になっていくなんて、、本当に嘆かわしいこと
です。あなた達の親も悪い!わるいのよ!、、、、よくもこんな馬鹿娘を育ててこられたわねぇ!」
 
「うっせーんだよ、ばばあ!」  「マジむかつくし」  「つーか誰?って感じ?」  「知らねーんだけどぉ!」
「美和って、むねでかーい!」  「あたしらの方かわいくない?」  「直樹かっこいいしぃ!」 「早くしてよ、もう!」
 
名指しされたグラビアアイドル、美和も同調するような笑顔を向けることしか出来なかった。
 
(質問にいって!)
画用紙にマジック書きしたアシスタントディレクターからの巻きが容赦なく入ってくる。
タイムキーパーから20秒後、コマーシャルに向かい催促が入った直後、テンポのいい音に合わせ、どこからとなく手拍子が
入った。
 数人のパネラーを舐めるようにしてハンディカメラが駆けていく。直樹は強引に笑顔を作るとカメラの前でおどけて見せた。
 
本当に大丈夫なのか?コマーシャル中、打ち合わせをしながら直樹はなんとも言えぬ思いに縛られていた。
と、いうのは昔みたいに単にイエス、ノー形式ではなく、一人一人の女子高生の席に専用の液晶モニターがあり、そこに絵なり
解答なりを書く構図になっている。
 この番組の売りの一つと言ってもいい。しかし、それはやえもすれば凶器にもなった。
 
 
 
もう少し落ち着いた状態から質問を始めたかったがここまできたら止む終えない。しかし、ここまで番組は粛々と進行している。
(友情)というテーマを無事に終え、最後のテーマに移ろうと直樹は持ったマイクを握り直した。
 
「えー、それでは次のテーマ(性)についてなんですが、では早速、、、もう私バージンじゃないって人?、、おー!100人中87人」
 
理想の答えだった。これから、年輩占い師婆さんのお叱りを受け、スタジオ全体が涙で終わる。そんな流れといえる。
グラビアアイドル、美和がわざとらしく両手で口を抑え、悲鳴を殺しているのがわかった。
 
「美和ちゃん、、、どうなの?、、、この数は?、、、やっぱさ、多いと思った?、、思っちゃったぁ?」
 
「そうですねぇ、、、ちょっとビックリしましたけど、まぁこんなもんなのかなぁ?今の子って、、、、」
 
よし。いい。その答えがベスト。よし。次に占い婆さんに振る。それで俺の仕事はほぼ、終わったも同然だ。
 
(こんなもん、ですって!?、、、冗談じゃありません!、、そうゆう考え方が、、人を、、この世の中をダメにするのです!)
占い婆さんに振るより先に何を言うのか想像できてしまう自分がおかしかった。
 
「じゃ、、、、じゃ、、、た、、体位は?、、、、え?体位はァ?、、、、、、な、、なにが、、、なににが好きなのおお、、、ぎゃはは!」
 
直樹は思った。こいつを忘れていた。サン加藤。馬鹿キャラを前面に出した芸風は、その金髪にしたもひかん頭からも見てとれる。
東北の田舎育ちとはいえ、生放送の怖さぐらいは事務所で教えているはずだ。悪いことに今日は常識ある相方もいない。
 
美和の顔がすぐに紅潮したが、その質問はスタジオに居る女子高生に向けられたものだと気づく。
 
「えっ!?サンちゃーん!、、、それ聞いちゃう?、、、、、100人に、それ聞いちゃうのぉー?、、もう、、相変わらず馬鹿だなぁ」
 
そう言いながら直樹はサブに立つプロデューサーの顔色を見た。額に手をやり、少し逡巡した感のあるポーズがしばらく続いている。
答えはオーケー。よし、心でうなずくと質問を出す。
年輩占い師は怪訝な顔をしていたがしょうがない。時間は刻一刻と過ぎていく。
 
「えー、では質問!、、、あはは、、、これ聞いちゃっていいのかぁなー?好きな体位は?、、、なんでしょー!!?
あー、やっぱり正常位が多いん、、、いや、、騎乗位?騎乗位が一位っ!」
 
客席のモニターが一斉にカメラに映される。そこには(バック)だとか(駅弁ファック)だとか卑猥な文字がズラリと並んでいた。
 
大丈夫なのか?ある程度経験を積んだ司会者としての不安が直樹の腹を渦巻いた。
相手が成人女性であるならこちらの対応の幅も広がりを見せられる。しかし、今日、ここにいるのは高校生。
それは、言い替えれば未成年であり質問する側の微妙な舵取りが要求されていた。
 
ベテランカメラマンも余りに過激な文字は被写体にしない努力をしていたが、どうしても全体を捉える引いた映像になってしまう。
 
(直樹とやりたい!)  (やっぱ正常位)  (とーぜんバック)  (処女っす)  (なんでもアリ)  (拓実君紹介してっ!)
 
液晶モニター、青色の背景に白い文字で書かれた一人一人の意見は、質問と関係ないことを書いてる子もいる。
しかし、目立って多いのはやはり騎乗位、という答えだった。
 
(うえ) (騎乗位かな) (うえに乗る) (男の上) (またがるスタイル) (騎手位サイコー) (上に乗っちゃうやつ)
 
 
さて、誰にしよう。(さくら)の女子高生をさっきのくだらない質問に使ってしまったことが惜しまれた。かぶせてはならない決まり。
しかし、誰かに答えの理由を尋ねなければ番組の性格上、ここから先、進行してはいけない。
直樹は比較的おとなしそうで、字もきれい、テレビ映えのする一人に注目した。彼女なら大丈夫だ。彼女なら。
 
「ん、、、、じゃ、、、君いこっか、、68番の方、、、、そ、、君、、、なんで騎乗位が好きなの?いやなら答えなくてもいいよん。」
 
薄いブラウンの半袖、解禁シャツに大きめのリボンを付けた、人形のように可愛いらしい女の子。その隣りで友人がチャチャを
入れるようにこずいている。
 
恥ずかしがり、変な魔をとられるより「え、答えたくなぁい」と言われた方がましだった。「そーですよねぇ、それはねぇ」で終わる。
しかし、彼女はスッと立つと、その可愛いらしい顔立ちからは想像できないことを口走った。
 
「え、、理由ですかぁ?んーとぉ、、、、、まず好きに動けるじゃないですかぁ、、、それとー、なんか男の子犯しちゃってるみたいでぇ
あと、、、上から感じてる男の子見てると、、ホント萌え萌えーって感じでぇ、、、、きゃはは」
 
プロデューサーの顔色が微妙に変わるのが分かる。当然だ。放送禁止用語こそ出してはいないがリアルに伝わる性表現は
放送法により規制されているのが現状だ。
 
「あ、、いやいや、お兄さんビックリしちゃったなぁ、、もういいですよ、、、、ごめんなさいね、ホントに」
 
「お、、、犯し、、、犯してるみたいにな、、、、、ってんだぁ!、、え?え?、、、どーゆー風に?ね?、、、どーゆー風にぃ!?」
 
「こらこらサンちゃん!、、、あなたホントにどスケベなんだからぁ、、、、、ダメですよ、そうゆうこと聞いちゃ」
 
少しの笑いに続き、年輩占い師を見ると怒りに震えた顔つきになっている。
ディレクターがカメラの後ろ、右から左に走り去り、なにやらプロデューサーと耳打ちしていた。
 
サン加藤。こいつを呼ぶことはもうないだろう。勝手に質問するのはいいが、処理する俺の気持ちにもなってくれ。
興奮したサン加藤はパネラー席に身を乗り出し、鼻息も荒くなっている。隣りの美和が場の空気を感じ、懸命に止めに入るが
無駄だった。
 
「え、、、だからぁ、、、年下の男の子とかの上んなってぇ、、、上からいきそうな顔ずっと見てるとぉ、、、こっちもぉ、、、」
 
「はいはいはいはい、、、、わっかりやしたぁ!わっかりやしたぁ!、、、、と、いう訳でぇ、、、次の質問いきましょーかぁ!、、、、」
 
強引にカメラをこちらに向かせ、自分の魔に誘う直樹。しかし、パネラー席を見ると怒りにも似た感情が沸き上がってきた。
 
「はーい!はーい!はーい!、、、、、、、はぁーーいっ!!!」      こいつは、、、、、こいつだけは、、、、、、
 
バカ加藤。いい加減にしてくれ。生なんだぞ。
大きい猿のような図体に垂れ目を細め、小学生のように挙手している。カメラに映ってるため、全く無視するわけにもいかない。
 
「なになに?、、、サンちゃん、、もうあなた帰っていいですよ!、、、さ、では次の質問!」
 
美和が手を叩き笑っている。
ある程度の毒舌で笑いをとりながら、本人にも、事の意味の自覚をさせる直樹の司会業で培った最高の受け答えだった。
 
「なんでぇ?喋らせてよー、、直樹くーん!、、、、、みんなでぇ、、、例えば乱交みたいなことってあんのかなぁ、と思ってぇ!」
 
「サンちゃん、、、、いい病院あとで教えてあげるから、、、、、うちのメンバーも行ってんだって、、、草狩とか、、、」
 
どっと笑いが起こる。ホントにしつこい野郎だな。勘弁してくれよ。これ以上、俺を苦しめないでくれ。
その時、何人かの女子高生の手が挙がった。この子達は何を言う気だろう。とはいえ無視してる訳にもいかなかった。
 
「なにー?、、、そんなの答えなくていいですよー、、次の質問いかせて、、、、あー、はいはい21番の子」
 
「乱交ってわけじゃないですけどー、女の子数人で男一人をやっちゃうことありまぁーす!」 「あるある、、、あるよねぇ!」
「はいはぁーい!、、あたしにも言わせてぇ!」  「いま、逆援交とかも流行ってんだってぇ!、、、」
「つーか逆レイプなんだけどねぇ!、、、あはは!」  「そうそう、、、あれ、、超うけるー!、、」  「男が泣きながらさぁ、、、」
 
音声さんの持つ長い棒のようなマイクが瞬間、遠ざけられた。中2階にあるサブルームから誰か両腕を振っているのが見えた。
今の音声は明らかに拾われただろう。全国ネットを張るこの局は、それがそのまま仇になる。
 
 
直樹の思いとは裏腹にスタジオは盛りに盛り上がっていた。収拾のつかない状態に近い。
深夜番組ならざ知らず、ゴールデンで放送されてる事を思えば最悪だった。
 協賛となっている化粧品メーカーや大手アパレルメーカーはこの番組を通じ、今の女子高生の清潔、活発さを現したいので
あって、ファッション専門学校などからも少額ではあるが提供を受けている。
 
いつもは、ここぞ、という時に怒鳴る占い師婆さんも呆れたようにスタジオを見回していた。
半狂乱になったディレクターがカンぺに(謝って)という文字を書いている。その前に直樹はカメラに向かい言った。
 
「えー、、只今ですねー、、、女子高生の方々から不適切な発言があったようでしてぇ、、、、どうも、すいませんでした」
 
バラエティ番組の性質上、あまり落ち込んだ空気を引きずりたくはない。
サン加藤が酔ったように頭をグルグルさせている。こいつはなんなんだ?なんか薬でもやってんのか?
釜野くーん!釜野くーん!相方を呼ぶ、そうゆう声が今にもこの男から飛び出しそうだった。
まるっきり司会者を無視し、手前に陣取る、とびきり可愛い女子高生の群れに個人的な質問を繰り返している。
 
「ねー?ねー?、、じゃ、俺も行ったら買ってくれるぅ?、、だって逆援交なんでしょー?、、、美和ちゃん、しないの?ぎゃははは!」
 
こいつは、、、馬鹿だ、、、、、、
この男は女子高生に対し、今、売春の話しを堂々としてしまった。しかも全国ネットで。
 
一人で面白いことを言ってるつもりのサン加藤はゲラゲラ笑っている。美和は微笑を浮かべていたが、怒った感情が瞳の奥に
ハッキリ見える。自分のマネージャーと目配せさせながら、そのプロポーション、癒し系をなんとか保っていた。
 
お前、、、どうする気だ?、、、、、、、、、、、、、、、、、、殺してやりたい、、、、サンを見ながら直樹は、、、そう思った、、、、、、
  
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