
秘密パーティーの招待状 (2)
レジデンス・フローリア。それが指定されたマンションの名前だ。入り口の両側には噴水があって、いかにも高級そうなマンションだ。当然の事ながらその金ぴかの正面入口はオートロックになっていた。
オレは指示されたとおり、そのオートロックに6桁の数字を打ち込む。オートロックの表示板に「GUEST」という表示が出て、702という目的地の部屋番号が表示された。オレは意を決してエレベーターで7階へ上がった。
エレベータが7階についたことを告げ扉が開く。ひっそりとしたマンションの廊下が続いている。幸いなことに人影はない。その廊下の一番奥の部屋が指定された部屋のようだ。在室を示すライトが煌々とついている。まるで誘蛾灯に吸い寄せられる虫のようにオレは吸い寄せられていく。
小さなインターホンを目の前にして、一瞬の躊躇のあとボタンに指をかける。
ピンポーン・・・・・
何の変哲のない普通のベルの音。
「はーい・・・・」。
さっきの電話の主のようでもあり、そうでもないような、妙に明るい声がインターホンから聞こえてくる。
「あ・・・あの・・・は、原田ですが・・」。
「あっ原田クンね。お待ちしてたわ。鍵はかかってないから、どうぞ入ってきてぇ」。
「あ、はい・・・」。
原田くんだって・・・。その言い方に少し引っかかりを感じながら、オレはドアノブに手をかける。ドアを開けたとたんに一斉に手が伸びてきて、部屋の中へと無理矢理に引き込まれ、あとはもう無茶苦茶に襲いかかられて・・・、といういつかみたAVの1シーンが頭をかすめたが、残念なことにその心配は杞憂でしかなかった。
玄関と部屋の間には厚いカーテンで閉じられていて、奥の様子は見えない。既に何人かの先客がいるらしく中からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。
ちょっと拍子抜けのような気持ちになりながら待っていると、突然カーテンの奥から一人の女性が姿を現して、にっこりとほほえんだ。黒を基調にしたカクテルドレス風のワンピースを着た、30歳前後ぐらいのきれいな女性だった。
「原田くんね、初めまして。私が今日のパーティーのとりまとめ役をしているアスカです。さっ、そんなところで突っ立ってないで、さっさと靴を脱いで中に入ってちょうだい。今晩は来てくれてありがとうね」。
「あ、はい・・・。どうぞよろしく・・」。
オレはドギマギしながらカーテンを開けて部屋の中へと入った。思ったより中は広々としていた。落ち着いたムード照明に満ちた室内には、10人ほどの華やかなパーティードレスに身を包んだ女性達の姿があった。ムーディーな間接照明と上品な花の芳香、そこに咲き乱れる赤や黄、白、黒と色とりどりのドレス姿の女性達。それだけでオレはドギマギとしてします。
室内には、センスのいい高級そうな調度品が飾られ、ソファーが等間隔で並べられている。女性達が三々五々に固まって楽しそうに会話を楽しんでいる。ソファーの前のテーブルの上にはホテルから取り寄せたかのような高級な料理や飲み物が並べられていて、まさにセレブたちのパーティーってな感じだ。
「それじゃ・・・そこに座って頂こうかしら。あ、その前に上着お預かりしましょうか?」。
「あ、いや・・い、いいです、このままで」。
セレブ達はぴたっと会話を止め、まるで値踏みでもするかのようにオレを注視し続けている。アスカさんから指定それた場所、それはそのセレブ達が座っているどまん中の位置なのだ。視線が集中していることが、オレの心から平常心を奪いさってしまう。迷ったあげくに、オレは女性達が座っているソファーから最も離れた、手近のソファーに腰を下した。
「あら、なんでそんな遠くに座るの? 遠慮しなくっていいのよ」。
「それとも・・あたし達が怖いのかな?」。
「ふふふっ・案外そうかもよ」。
オレは気後れをしながらも、それでも初対面の挨拶だけはしようと口を開きかけた。
「あの・・・こんば・・・」。
ところがオレが口を開きかけたとたん、彼女達はオレから視線を外し、さっきまでの自分たちの会話を再開してしまう。誰もがオレに対する関心を失ってしまったかのように、オレは完全に無視されていた。オレは会話に入るきっかけを失ったまま、なんともいえない居心地の悪さを感じていた。
「何か飲みます?」。
アスカさんがカウンター風のキッチンバーから顔を出して尋ねる。
「あ、はい、そうですね。じゃあ、ビ、ビールを」。
「えーっ、もう飲んじゃうの?最初から酔っぱらっちゃったら、あとが大変だよぉ」。
「えっ?」。
自分たちの会話に熱中していたはずの女性達の中から、OL風の服装をした女性から声がかかり、オレは絶句した。あとが大変というその言葉が頭の中を反芻する。その言葉の裏に何か大きな秘密が隠されているような気がして、じっと彼女をみつめた。
「リカちゃんったら、そんなこと言ったら原田さんがビックリするじゃない。いいのよ原田さん、気にしなくっても。何でも好きなものを言って頂戴。ビールでいいわね」。
「あ、はい。お願いします」。
アスカさんが助け船を出してくれる。でも何か身体中が熱い。なにがどうと表現できないけど、この部屋全体を覆うムードにオレはしだいに金縛りにあったような気分になりかかっていた。
「ね、原田さん。今日パーティーなんだから、もっと楽にして。今からそんなに緊張してたんじゃ、ゆっくり楽しめないでしょ」。
アスカさんが缶ビールをグラスにそそいでくれて、オレの横に腰掛ける。
「今日はゆっくりと楽しみましょうね」。
「あ、はい・・・」。
「そうだ、そんなに離れてないで、もっとみんなの近くに座ったらいいのに。ほらリカちゃんもあなたに興味津々みたいだよ」。
アスカさんが指さす方向には、さっきのOL風の彼女がいて、こっちをみてにっこりと微笑んでいる。そうか、彼女はリカさんというのか。
「それともリカちゃんのお隣に座るのはイヤだなんて言わないよねっ」。
「いえ、そ、そんなわけじゃ・・・」。
「ふふ、そうよね。彼女ったらとってもカワイイし。だったら・・・、リカちゃん、原田さんあなたのこと気に入ったみたいだよ」。
「ほんとにぃ?。じゃああたしがそっちに行くよ」。
リカちゃんという子がすっとオレの横に移動してきて右横に座る。左側にはアスカさんが座っているから、両側から美女に挟まれた格好になり、オレはますます緊張してしまった。
「ほぉらぁ、女性二人にサンドイッチにされてウレシイでしょ」。
リカちゃんがオレの顔をのぞき込むように眺める。どうやらこのリカちゃんという子は、オレを挑発して楽しんでいるみたいだ。なんとなく黒猫を思わせるしなやかな肢体が密着し、彼女の身体から立ち上る香水、なんて言ったのかな名前が思い出せないけど確か若い女性に人気のあるやつだ、それが鼻孔をくすぐる。
「あの・・・なんか、すいませんね・・・、いつもはこんなじゃないんだけど、今日はなぜだか雰囲気に緊張してしまって」。
オレはリカちゃんからは意図的に視線をそらせながら、アスカさんに弁解がましく言い訳をした。
「ふふ、そうね。初めてここのパーティーに来た男性はみんなそうなるみたいね。たまには虚勢はって遊び人みたいに振る舞う人もいるけど、たいていは女性の多さに圧倒されてビクビクしながら無口になる人が多いわね。で、どうかな。女だらけのパーティー、気に入ってくれたのかな?」。
「そう・・・ですね・・・はい・・・」。
オレは照れ隠しに、グラスに入ったビールを一気に飲み干した。アスカさんがにこっと微笑みながら新しいビールをグラスに注いでくれる。
「ふふっ、原田さんって、逆レイプに興味があるんですってね?」。
突然リカちゃんが会話に割ってはいる。オレは思わずその核心に迫るビールを吹き出しそうになった。
「あ、いえ、はい・・・そ、そうです」。
「ふふっ、そうなんだ、女の子に犯されてみたいんだってね」。
「あ、あの・・」。
「いつも逆レイプだとか、そんなビデオばっかり借りてるんですってね」。
「いや・・そんなのばっかりというわけじゃないけど・・・」。
「ふぅーん、で、どんな風に犯されてみたいのかなぁ?」。
「・・・・」。
「ムチとかローソクとかそんなのもありなのかなぁ?」。
「いや、そんな・・・痛いのとか汚いのとかはちょっと・・・」。
「そっかぁ、じゃあアナルなんかは大丈夫?」。
「ちょっと、リカちゃん、いいかげんにしなさい。原田さんが困ってるじゃないの」。
「いえ、いいんです。大事なことだから・・・」。
「で、どうなのぉ」。
「えっとアナルの経験はないです」。
「そう、じゃあ興味はあるのよね。いいわよぉ、最初はみんな抵抗があるみたいだけど、一度やってみるとその快感にヤミツキになっちゃうって話しだから・・・」。
「そんなものですかねぇ」。
「そんなみたいよ。前のパーティーの時も、ねっ、えっとなんて言ったかな」。
「ライラックさん!」。
「そう、ライラックさん。確か北海道の人よね。なんでもエッチ系のホームページでエッチ小説を投稿してるって言ってた人ね。すっごく面白かったよね」。
「ふふっ、そうね・・・」。
女性ふたりの話しに、オレはさっきまでの緊張と不安が、興味と好奇心へと代わり、その話しの続きがどうしても聞きたくなった。
「あの・・その人どうなったんですか?」。
「ふふっ、聞きたい? でももうちょっと待って。そのお話しはパーティーが始まってからにしましょう。私から話すよりも他のみんなから聞いた方がきっと面白いと思うのよ」。
「そんなもんですかねぇ」。
そのあとは、女性二人とのとりとめもない会話が続いて、オレはすっかりリラックスしてしまった。いつのまにかビールも2本ぐらい空けたようだ。気分も乗ってきたことだし、あちらのソファーの女性集団にも話しかけてみようかな、そう思った矢先に、アスカさんが提案した。
「じゃあそろそろ先にシャワー浴びてきてくださいな。私達も準備しますから・・・」。
いよいよだ。いよいよ始まるんだな。高まる期待ををぐっと堪えて、オレはシャワー室に消えた。
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