秘密パーティーの招待状 (1)

 

 「それでは、19時ちょうどに、地図に示してある場所にお越しください」。
 電話の女性はそう告げた。決して事務的でも営業的でもない、涼やかな声がこのイベントの現実味を実感させる。

 このイベントの誘いを受けてからの1ヶ月間、これはきっと裏に何かとんでもない落とし穴が隠されてるのではないかという疑いの気持ちと、ぜひ本当の話であって欲しいという願望が交錯していた。今こうして指定された会場へ一歩近づきながらもまだ100%この話を信じた訳じゃない。

 でも今、オレは迷うことなく、この目でその真偽を確かめるため、いやこの話が本当のことであると信じたいが故に、一歩づつ指定された場所に近づいている。デパートの横を通り、ガードをくぐり、コンビニの前を通り過ぎる。地図に書かれたマンションの前につくと、指定された時間にはまだ10分ある。

 オレは心臓の鼓動がいつもより早いことを感じながら、気を落ち着けるためにタバコに火をつけた。目の前を通り過ぎていく女性達がみんな、このイベントの参加者であるかのような錯覚にとらわれて、そのたびにドギマギとしてしまう。いやがおうにも気分がどんどんと高揚して緊張感が高まっていく。


 このイベントの誘いは突然にやってきた。東京で一人暮らしを初めて半年。そろそろ生活のリズムにも慣れ、日常の会社とワンルームの往復の繰り返しに飽きが来ていた。週に一回、会社の帰りに立ち寄るレンタルビデオ店で、大好きなSFもののビデオを借りるついでに、男なら誰しも経験のあるアダルトコーナーにも入って好みに合うアダルトものを1本2本と借りて帰った。

 そのビデオ店は繁華街のはずれにあって、人通りもそんなに多くないのにかかわらず、いつも人でにぎわっていた。無愛想な若い男の店員がひとり無口で対応していたのだが、いつの頃からか30代後半の女性店長がカウンターに立つことが多くなった。

 アダルトビデオを借りる時はできたら同性の方がいい。いくら年増だといっても女の人にエッチビデオを借りるところを見られるのは恥ずかしいものだ。ましてや僕の借りるビデオやDVDはあるひとつの傾向を示していることが一種の後ろめたさを伴っていた。

 そう。この小説を読んでいる諸氏なら激しく同意してもらえるはずの、逆レイプものだとか集団痴女系のものが多かったのだ。でもいくら恥ずかしいからって、自分の好みにあわないものにお金を払うつもりはない。見たいものを借りる、それがAVを借りる時の鉄則なんだから(そんな鉄則あったかな?)。


 そしてちょうど1ヶ月前のある日。僕はその店長から声をかけられたのだ。
 「いつもご利用いただいてありがしとうございます」。
 「あ・・・いえ・・・はい」。
 僕はじっと僕の目を見て話す彼女の視線にドギマギしながら答えた。
 「今日は・・ええっと、『女痴高性・逆レイプのつどい』と『女刑務所シリーズ・集団男いじめ』の二本ですね」。
 「そ・・そうだけど・・・」。
 僕の背中に冷や汗が流れた。幸いなことに今日は平日の夜のためか、店内に他の客はいなかったから良かったものの、そんなのわざわざ声を出して言わなくてもいいじゃないか。僕はその店長の無神経さに腹を立てかけていた。

 「会員番号1252番の原田さんですわね。でも本当にこういうジャンルのAVがお好きなんですね」。
 「んっ、そうだけど・・・なんか悪い?」。
 オレはわざとムスッとした声をだして、その女店長に抗議の意志を伝えようとした。しかし彼女はオレの抗議など気にする風もなく続ける。

 「いえ、悪いなんて言ってませんわ。むしろ素晴らしいなって思ってますのよ」。
「・・・・・・」。
 「そうね。ごめんなさい。誤解をしないでね。私は別に悪気があってあなたに声をかけた訳じゃないの。ううん、むしろその逆。私たち以前からあなたに目をつけていて・・・それでお話しができるチャンスを待っていたのよ」。
 「話が出来るチャンス?」。
 「そう、チャンスよ。いつもはこのお店、お客さん多いでしょ。なかなか声をかけれなくって・・・」
 「ぼくに?どうして?」。

 予想外の話の展開に僕は思わず店長の話しに引き込まれていた。いったん湧きかけていた腹立ちはとうに収まっていた。ただ詐欺商法とか、裏ビデオの販売ならお断りだけどと、若干の警戒心だけは残しながら。

 「じつはね。私たちあなたみたいな人を捜しているのよ。つまり・・・なんていうのかな、逆レイプだとか女性集団ものに興味があって、若くてちょっとばかしカワイイ感じの男性をね」。
 「えっボク・・・」。
 「そう、キミよ。このジャンルってけっこう難しいのよね。いわゆるマゾ男ってのとも違うし、ハーレムの女好きってのとも違うし、なかなか若い子でその条件に合う子っていないのよね。それでお店のアダルトビデオユーザーから、条件に合うAV借りている人の検索をかけて、きみを探し出したって訳なのよ」。

 「それって、ひょっとしてお姉さん、ボクをナンパしようって話し?」。
 「ふふん、ちょっち違うんだなぁ・・・・。なんていうのかな、いわばとある秘密サークルへのご招待っていったらいいのかな」。
 「ひ、秘密サークルですか?」。

 僕の声がうわずったのが、よっぽどおかしかったのか、彼女はころころと笑いながら話を続けた。
 「そう、秘密のサークルなの。ところで、原田さんに質問なんだけど、あなたは今まであなたがご覧になっていたAVの世界を、ただ見るだけじゃなくって、実際に生身の身体で体験したことってあります?」。
 「い、いえ、そんなことありえないって・・・」。
 「そうよね。あれは男性の妄想の中の世界のことであって、現実にはあり得ないことだって思ってらっしゃるのね」。
 「はい、一部の風俗にそんなのがあるって聞いてますが、まだ経験したことはないです。なんか料金も高そうだし」。
 「ふふっ、正直でよろしい。ますますアナタが私たちの求める条件通りの人だって確信を持ちましたわ。それじゃあ二つ目の質問よ。もしもそれを本当に体験することの出来るパーティーが実際にあったとしたら、アナタはそれに参加してみたいとお思いになるかしら?」

 「えっ、そんなパーティーがあるんですか?」。
 「こらこらぁ、質問しているのはわたしの方よ。ちゃんと質問に答えて頂戴」。
 「あ、はい。わかりました。正直なところ、もしそんな場があるのならぜひ体験してみたいです。いえ、ずっとあこがれてました・・・」。
 「そう。わかった。それじゃあキミをわたしたちのサークルにご招待します。でも・・・いい?これは秘密サークルなんだから、キミもその一員として秘密厳守だけはゼッタイに守ってもらうわよ。いい?もしその禁を破るようなことがあったらただじゃおかないからね。約束できるかしら?」。

 「わかりました。約束します」。
 「それじゃ決まりね。もう一度念を押すけど、後悔しないわね?」。
 「後悔ですか?そんなありえないですよ」。
 「ふふっ、頼もしいわ。じゃ連絡してみるわね。でも、いったん話が決まったら後戻りは出来ないわよ。キャンセルなんかしたら大変なことになっちゃうけど、ホントにそれでもいいのね」。
 「うん。どんなことがあっても参加するから・・・」。

 ボクが答えると、彼女はカウンターの下から一通の封筒を取り出し、ボクに差し出した。
 「パーティーの詳細はそこに書いています。開催日は1ヶ月後の○月○日。日程的には大丈夫かしらね。他のメンバーの都合もあるから絶対に来ないとダメだからね。注意事項も書いてあるから、そのとおりににね」。
 「はい」

その後オレは、参加する女性の人数などを質問してみたけど、店長は謎めいた笑みを浮かべるばかりで、なんら具体的なことは教えてはくれなかった。そうこうするうちに店内にはお客さんがどんどんと増えてきてしまい、とても質問など出来る状況ではなくなってしまった。

 また返却する時にでもきいてみたらいいか。オレは夢見ごごちのままでビデオ店を後にした。

 パーティーの招待状を手にしてからというもの、オレはこの日のことばかり考えてきた。短い招待状の文面ではあったが、そこに書かれている内容は、いやが上にも大きな期待を抱かずにはおられなかった。

 あくまでも女性が主役のパーティーであること
女性の性の欲望を解き放つお手伝いをしてもらいたいこと
少数の男性ゲストは女性を楽しませることこそがその役目であること
いったん始まったら途中で退出することはできない。
 
 その招待状にはそのようなことが書かれていた。しかしその短い文面からはどうしてもそのパーティーの詳細が見えてこない。

 オレはその後何回か例のビデオショップを訪ねても見た。しかしあの日以来、あの女性店長はぷっつりと姿を現さなくなっていた。そうしてとうとう具体的な質問も出来ないまま、今日を迎えてしまったというわけなのだ。

 

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