旅の恥はかきすてですか?  (1)

 
  いやはや、噂には聞いていたけれどなんともすさまじい一日だった。先輩からはいろいろと聞かされて期待もしていたけど、これほどのものとは思わなかった。若い女の子の集団、花も恥じらう女子高校生の集団パワーに、まる一日というもの圧倒されっぱなしだった。

 そしてようやく彼女たちから解放され、つい今さっき、自分用にあてがわれた個室に戻ってきたところなのだ。気の利いた旅館ならば、ちょっとした夜食などをそっと用意してくれていることもあるが、どうやら今日の宿はハズレのようだ。時間は午後11時を回ろうとしていた。

 明日の朝も早い、そろそろ寝ておかないと明日はもっと大変になりそうだ。添乗員岡崎光一、都内某旅行会社に勤務してから5年。ようやく日々の営業の仕事にも慣れ、そして国内の添乗業務もひととおり何でもこなすことが出来るようになった。そしてそしてそこに巡ってきたのが、この私立女子高校の修学旅行の添乗の仕事だった。

 ふつうの添乗ならば、学校側から提示された旅行計画書に従って、旅程管理をしていけば良いのだが、この学校は少し違っていた。生徒の自主性を最大限に尊重するとの教育方針に従い、旅程は生徒の代表によって計画され、当日の旅程についても生徒側からの要望によってコロコロと変更する。そのたびに添乗員の立場としては右往左往しながら手配の変更に翻弄される。

 本当にこれが自主性を尊重するということなのか。単なるワガママじゃないのか、と思いながらも仕事と割り切ってソツなくこなした。おかげでその日の宿舎に着いて、その後の雑用を全て処理した上で、添乗員用にあてがわれた個室に戻ると、どっと一日の疲れが押し寄せてきたという訳なのだ。。

 今日の宿は、京都市の町はずれにある小さな日本旅館だ。学校側の要望で全館貸し切りになっていて、他の宿泊者はいない。全館が若い女の子のパワーで埋め尽くされている感じだ。貸切りの気楽さのせいか、旅館の廊下ですれ違う女の子達の服装も大胆で、目のやり場に困るほどだ。

 学校から同行してきている先生が3人。しかしその三人の女性教師の存在は、ほとんどゼロに等しい。これも生徒の自主性にまかすと言うことなんだろうか、生徒たちの服装の乱れや行動に対して特に注意をすることなく、ただ放任してついて来てるだけという感じだ。   

 女の子達もたった一人の若い異性である光一には興味津々と見えて、からかい半分に挑発的なポーズをしたりする。わざと大股を開いたり、スカートの裾を上げたりして下着を見せてみたり、まるで下着そのままのキャミルックの肩ひもをずらしてみたり、露骨な挑発をしては、光一の反応を楽しんでいるふうだった。

 添乗員としての自覚と大人の理性で、その子供っぽい挑発を無視していたが、下半身がそのたびに反応してしまうのを抑えるのが大変だった。まさか彼女たちに気づかれていないかと思うと、一日中ビクビクのし通しだった。

 光一は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、プシュッと空けてその中味を一気に飲み干した。身体の中から一日の疲れがすぅっと癒される。本当ならこのままバタンとフトンの上に横になりたいところだが、仕事はまだ残っている。光一は気を引き締めて添乗員としての一日の終わりの仕事、本社報告用の日報記入と予備金現金の精算、そして明日のスケジュールの確認などに取りかかった。

       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 「ねぇねぇ、今日の添乗員の人、いけてたと思わない?」。
 「もぉお、サチったらまたその話・・・。もう今日何回目よ?」。
「だってサ、気になるじゃない」。
 「あたし的には・・いいと思うけど・・」。
 「ねぇ、2組の安西って知ってるでしょ。あいつ今日しきりにあの人にモーション送ってたって知ってた」。
 「ええーっ、うっそー、何してたの」。
 「ほぉらー、あいつ色魔じゃん、清水寺の見学の時さ、みんなが上に上がってるのにアイツだけ下にいて、で、わざとあの人に見えるようにスカートヒラヒラさせてたんだんだから・・」。
 「ええーっ!何よそれっ・・」。
 「あいつあれで誘惑したつもりなんだろうけど、ははっ、とんだ淫乱女だわっ」。
 「ほーんと、わが校の恥ね」。
 「でもサ、あの添乗員、まんざらでもないみたいよ。びっくりした表情して、それでもしっかりと安西のパンツみながらアソコ大きくしてたから・・」。
 「ええーっ、そうなの?サイテー・・・」。
 「だいたいね男なんてものはサ、みんなそんなものよ。スケベなんだから」。
 「でも、あたしはスケベな男の人のほうがいいなぁ・・」。
 「うん私も、どちらかというと男はちょっとスケベなほうがいいよぉ」。
 「うーん、そっかなぁ・・」。
 「美砂ったら、それがわからないようなら、まだお子ちゃまね〜」。
 「なによぉそれ!」。
 「あっ、ひょっとしてマジで怒ってる?」。

 生徒達に定員ごとに割り振られた部屋の中では、10時の消灯時間が過ぎても彼女達の話し声が止むことはない。それはそうだ今日は待ちに待った修学旅行の第一夜。パジャマやネグリなど思い思いの寝間着には着替えているものの、いったん敷き詰められた寝具はジャマにならないように部屋の四隅に固めてしまい、中央にはみんなが持ち寄ってきたお菓子やジュースなどが並べられている。

 話されている話題は、日常のとりとめのない話。学校のこと、芸能界のこと、オシャレのこと、誰かさんの彼氏の事、次々と速いテンポで話題が変わっていく。同時にふたりがしゃべっていても、不思議なことにちゃんと会話は成立していて、みんなもそれを理解しながらドンドンとオシャベリが展開されていく。

 女の子ならではの、いや女性特有の会話のルールがここでも成立していた。誰かが何かについて自分の感じたことを話すと、間髪を入れずに誰かが「うんうんわかる」という慣用句を口にする。他のみんなも同様にうなずいたりして、同意の意思表示をする。

 つまり彼女達はオシャベリという行為を通じて、そこにおける仲間同士の「共感」と絆の強さを確認しあっているのだ。女性のグループ心理において、この共感は、「仲間」とそれ以外とを識別する上で、とても大切なものだ。それを怠ることは、ある日突然に仲間からハズされる危険性を秘めている。

 彼女たちは本能的にその危険を犯すことなく、フワフワしてあったかい居心地の良さを求め、安定感のある仲間の一員として共感を深めていく。うんうん、そうよねー、わっかるわー、そうそう、そうなのよ〜・・・・・。


 「ところでサ、さっきの添乗員の人のことなんだけど・・・」。
 「うーん、アタシ的には、あの人マルだよ」。
 「あたしもー」。
 「なんかね。かわいかったわよね」。
 「そうそう、でさ、この旅行中にさ、カレの落としあいっこしない?」。
 「落としあいっこって?」。
 「それって、誰がカレを自分の彼氏にしちゃうかってことぉ?」。
 「ううん、ちがうの。みんなで一緒に落としちゃうのよ」。
 「えっ、みんなでって・・・」。
 「ね、ね、よくわかんない。何どうするって・・」。
 「ミキったら、また変なことたくらんでるでしょ」。

 ミキと呼ばれた女の子は、秘密めいた笑みを浮かべてみんなを見渡す。まわりのみんなも興味津々でミキの次の発言を待っている。

 「いい? 私の勘では、カレって女性経験あんましなさそうに思うの。ひょっとしたら童貞かもしれないかなって・・・」。
 「ドーテイ?・・・」。
 「うん、童貞。私らってみんな一応は経験者ばかりじゃない、あ、美砂はバージン捨てたばかりだけど、それでも一応は経験者だよね。だから・・・」。
 「だから・・・」。
 「ふふっ、みんなでカレのこと襲っちゃおうかなーって・・」。
 「ええーーっ、マジ?」。
 「ちょっと、ミキ、あんた何考えてるのよぉ」。
 「襲うって、あたしらが男の人を?」。
 「うん。みんなで襲っちゃうの。裸にして、あそこも丸見えにして、みんなで楽しんじゃうのよ。いくら男の人だからって、こっちは7人もいるんだし、力の上では絶対に負けないと思うんだ」。
 「ええーっ、うっそー、でも、面白いかも・・」。
 「はははっ、面白そう、ね、ね、やろう。あたし賛成〜」。
 「あたしもいいよ、賛成」。
 「でもさぁ、そんなことしてホントに大丈夫かなぁ?」。
 「何が心配なのさ。センコーのことだったら、全然平気だと思うよ」。
 「あの年増センセたちはどうでもいいのよ。それよか、添乗員さんにそんなことしていいのかな、なんかカワイソぽくない?」。
 「甘い、甘い、そんなこと言ってると、2組の連中に先を越されちゃわよ」。
 「ええーっ、2組ぃ、ねっ2組がどうしたって?」。
 「へへーっ、あたし聞いちゃったんだ。2組の連中、どうやら今晩中にでも、あの添乗員さんを・・」。
 「こぉらぁ、何よそれ、何をするってのよ」。
 「明美、何を聞いたのよ、じらさないで早く言って」。
 「2組のやつらね。あの安西とその取りまき連中なんだけど、今晩添乗員さんの部屋に夜這いをかけるんだってさ」。
 「よ、夜這いぃ・・・」。
 「うっそぉー、それってあべこべじゃない。女が夜這いかけるのぉ」。
 「でしょ、びっくりたよ私もその話聞いたときは・・」。
 「こりゃあ、うちらもウカウカしてらんないな・・」。
 「そうだよね。あんな2組の連中に、かわいいカレを汚されるぐらいだったら、いっそのこと私たちが先に奪ってあげた方が、カレにとっても・・・」。
 「そうよ、そうよ、あいつらには絶対に負けられないしさ」。
 「うん、カレの幸せのために、ここは私ら心を鬼にして・・・」。
 「彼のドーテイ君を散らせてあげましょう・・」。
 「みんなで筆おろしぃ・・・」。
 「ははっ、それいい。これって修学旅行のサイコーの思い出ジャン」。
 「みんなと一緒だから、安心だしね」。
 「それにこんなことできる機会なんて、今後もそうそうないだろうしサ。ね、このさいやっちゃおうよ」。
 「うん、やっちゃえ、みんなでレイプだぁ。女が男をレイプしちゃうんだぁ・・・考えたら、ほんとにエッチな気分になってきたよぉ・・」。
 「それも言うなら、逆レイプよね」。
 「うんうん集団の逆レイプ・・ふふっ、あたし前にインターネットのエッチサイト見てたときに、確かアマなんとかっていったかな、そこで読んだ小説になんかそんなのがあったみたい・・」。
 
 みんながそれぞれ好き勝手にしゃべっているみたいでも、計画はあっとうまにまとまっていく。みんなで頭を寄せ合って、異様な興奮状態に目をランランと輝かせて、共通の目的へと突き進んでいく。ミキを中心にした7名の花もはじらう(?)乙女達による、添乗員襲撃計画はこうして練り上げられていった。
 
 彼女たちは知らなかったが、実は隣の部屋でも、そのまた隣の部屋でも、ほぼ同じような計画が同時に進行していた。偶然の一致というにはあまりにもできすぎていたが、好奇心の固まりのような女の子の集団が、自由と開放感に解き放たれたならば、この暴走はひとつの必然なのかもしれない。

 こうして某女子高校の修学旅行ご一行様における、記念すべき第一夜が始まった。

 つづく
 

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