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逆援助交際の男 その1
「今日の夕方、7時ちょうどに○○駅前にあるマクドナルドの前で待っていてください。1221」
そんなメッセージが俺の携帯に入ってきたのは、ちょうど今から2時間前。バイトの仕事を終えて、そろそろ家に帰ろうかと思っていた時だった。1221というのは、逆援のためのオレ専用のコールサインだ。
おっ、今日もついてるな、と俺は無邪気にそう思った。
俺が逆援を始めたのは、今から半年ほど前だった。逆援とはつまり逆援助交際のことだ。普通の援助交際はというと、男が女の子にお金を渡して、女の性を買う行為のことをさすものだが、この逆援はその反対に女性が男の性を金で買うのだ。
ええっ? そんなオイシイ商売がアルのかって、たいていの人はそう思うだろうね。正直いってこの俺ですら最初に「こんなビジネスがあるんだけど」と、話を持ちかけられたときには半信半疑だったさ。しかしいるんだよ。世の中にはお金を出してでもいいから、自分を抱いて欲しいと考える女がね。
もちろん半分以上は水商売に勤めている女達さ。自分の性を切り売りする日常を送っていると、時として立場を逆転させて男に奉仕されてみたいと考えるものらしい。しかしびっくりしたのはあとの半分だね。どう見たって水商売には見えない、普通の女達でもこの逆援の噂をどこかで聞きつけて、連絡をしてくるんだよ。
でもね。誤解があるといけないので断っとくよ。こんな楽しいことを商売に出来るくらいだから、俺ってけっこうイケメンだろうと思うだろ。銀座や新宿、キタ新地にいるホストクラブのお兄さんみたいにカッコイイ容姿とマスクしてるだろうとね。ふふっ、それが違うんだな。
残念なことに風貌はどうみたって十人並み。この小説をよんでいる皆さんとほとんど変わることのないフツーの男です。身長もせいぜい165センチ。やせ形ではあるけど、どっちかというと冴えないフツーの男なんだぜ。
ただ取り得と言ったら、大学時代にオチケン・・つまり落語研究会に所属していて、女を笑わせて楽しく会話を持たせ事だけには自信があったってことぐらいかな。ほんとただそれだけだったんだけど、それが意外にもこの商売にはマッチしたと言うことらしい。
逆援に申し込んでくる女達は、たいていは欲求不満を抱いている女が多い。彼女達はオレの巧みな話術にコロリと参ってしまうのさ。彼女達をジョークなどで楽しいフンイキにさせてから、適度なお世辞などで彼女たちの自尊心をくすぐってあげたらいいのさ。
ケータイで連絡を取り合って、軽く食事をしたらそのままホテルに直行。と言うのがいつものパターンだ。1晩のプレーでだいたい1万円から2万円のお手当がもらえる。友人の話だと売れっ子になると一晩に2〜3人をこなすこともあるらしいから、それだけで楽に食っていくことが出来るらしい。
しかしオレにはまだそこまでの実力はないので、せいぜい一週間に二人から三人。だからアルバイトも辞めるわけにも行かず、こんな二重生活を送っているというわけだ。
さて、俺は身支度をすませてから、待ち合わせの場所に向かうことにした。マクドナルド前というのは珍しいパターンだ。たいていは人目を避けて喫茶店とかレストランを指定してくることが多いのだが・・・。まっ、デートみたいな感じでこれもいいかな。
俺は指定時間の5分前にマクドナルドの前につき、目印の「とらばーゆ」を片手に持ってクライアントを待つことにした。そうそうタバコのニオイを消すためのブレスケアを飲むことも忘れてはいけない。
しかし・・・。予定時間を15分過ぎてもそれらしい相手は現れない。思わずタバコに手を出しかけて思いとどまる。相手のクライアントがタバコを好きか嫌いかが判らない段階でタバコは厳禁なのだ。こうしている間にも声をかける勇気が無くて、物陰から俺のことを見ているかも知れないのだから。と言うことは今晩の相手はたぶん素人だな、おれはもう15分間だけは待つことにした。
7時30分。ケータイの文字盤には約束の時間から30分が経過したことが表示されている。ふっ・・・。俺は軽くため息をついて、我慢をしていたタバコに火をつけた。イタズラだったんだろうか・・。煙を肺の奥に吸い込みながら考えた。
「逆援」を始めてこんな事は初めてだった。待ちぼうけに少し腹が立ったが、何かの事情が出来たのだろうと善意に解することにし、俺はタバコを路上に捨て靴底でもみ消してから店前を離れることにした。そしてほんの数歩、歩き始めたその時だった。
「1221のガロさんですね」。
「あっ、はいっ」。
突然に声をかけられ、俺はびっくりして振り返った。
そこには薄いピンクのワンピースを着た若い女性が立っていた。茶色がかったきれいな髪の毛を左右にまとめ、満面の笑みを浮かべたままで彼女は俺を見つめていた。
「あっ、あの・・・」。
「そう。あたしです。お待たせしてゴメンナサイ」。
「あの・・・あっ、そうだったんですか・・」。
俺はしどろもどろになってしまっている自分にあきれかえりながら、なんとか平静の心を取り戻そうとしていた。しかし焦れば焦るほど、ますます自分の声が上擦っていく。それは目の前の女性のあまりの美しさに、心を奪われてしまったせいだったろうか。ヒトメボレ、彼女は俺にとってまさに理想の女性と呼ぶに等しい容姿をしていたのだ。
「ねっ、ガロさん。吸い殻をポイ捨てなんてしちゃダメでしょ」。
「あっ・・はい。そ、そうですね。ご、ごめんなさい!」。
「ふふふ・・・」。
彼女は可笑しそうに笑い、そして俺はますます余裕のない心理状態に追い込まれていく。
「じゃ、ガロさん。行きましょうか。今晩から明日の朝までは、私がアナタの身体と時間を自由にさせていただくと言うことで、よろしかったですわね」。
「あっ、はい。逆援クラブ○○のガロです。どうぞよろしくお願いします」。
俺は辛うじて営業用の挨拶をすますことが出来たが、いつもの軽口ジョークを飛ばす余裕すらなく、この場における主導権を完全に彼女に握られてしまったのだ。
「じゃ、時間がもったいないからすぐに私のマンションに行きましょう。そこに車を止めていますから、乗ってくださるかしら」。
「あっ、は、はいっ」。
彼女の指す方を見ると、そこには真っ赤なスポーツカーが止まっていた。えーっと名前は忘れたけど、これってフランスかどっかで作られた外車だっけ。お金持ちしか買えないという、すごく高そうな車。えっ、これに乗るの?
「さっ、どうぞ・・」。
彼女は車の前まで来ると、さっと助手席のドアを開けてシートを前に倒し、俺を後部座席に案内する。えっ後部座席?。助手席に座るものとばかり思っていた俺は少し戸惑いながら車の中をのぞき込む。
「はーい。こんにちは。私、エリ。よろしくね」。
運転席にはもうひとりの女の子、みるからに女子大生風の女の子が座っていて、助手席のシートごしに俺に向かって挨拶する。
「何してるの。早く乗りなさいよ」。
「あ、はい・・・」。
俺は訳が分からないままに、後部シートに身を押し込んだ。外車とはいえ、もともとはスポーツカー仕立ての車だ。後部座席の居住性はあまり良くない。俺が中に入ったのを確かめると、クライアントの女・・と、そういえば俺はまだ彼女の名前も聞いていなかったんだっけ・・・彼女はすぐさま助手席に乗り込み、車はすぐに目的地に向かって走り出した。
「あの・・・」。
俺がクライアントの女に話しかけようとすると、彼女は俺の言葉を遮る。
「詳しい話はマンションについてからよ。それと、場所を知られると困るからあなたには目隠しをしてもらいましょうか。はい、アイマスク。これをして後ろで静かにしててね」。
「あ、はい・・」。
クライアントのプライバシーは最大限に尊重しなければならない。これは逆援の鉄則なのだ。俺はアイマスクを手に取ると、素直にそれを顔につけた。目の前が真っ暗になって、何も見えなくなる。
「ふふっ。素直でよろしいッ。それじゃマンションに着くまでは、ゆっくりと体を休めておいてね。たぶん、今晩は寝させてあげられないと思うから・・」。
「えっ・・・・」。
俺はその言い回しに、何か秘密めいたものを感じて、少しだけの不安を抱きながらも、エッチな妄想に大きな期待を抱くのだった。車内にはMDから最新のヒット曲が流れ、彼女たち二人の会話がとぎれとぎれに聞こえる。
「・・・準備はすんでたのね・・・」。
「・・がね。でもみんな間に合うと思うわ。アヤったらね・・」。
「ふふふっ・・・で、そうパーティーなんだし・・いいわよ・・それで」。
とりとめもない女達の会話を聞きながら、俺は今晩はとびっきり素晴らしい夜になりそうな予感がしていた。「今晩は寝させない」。確か彼女はそう言った。ということは今晩はこんなスゴイ美女と二人っきりで・・。
でも彼女、こんなに美人なのにカレシがいないんだろうか。美人すぎて男が近づかないのかも知れない。そうか。だから男が欲しくなって逆援クラブに電話してきたんだな。じゃ、今晩はたっぷりと俺のテクで彼女を楽しませてあげないとな。
そうだ。ところでこの運転している、エリと名乗った女は・・・。彼女の友達?。でもこんな逆援しているって秘密を知られてもいいんだろか。フツーは友達には隠すもんだろ。ということは・・。レズ友?。うん、考えられる。ということは今晩は3Pなんてパターンも考えられるんじゃないか。
そうか。わかった。だから「寝かせない」なんだ。つまりレズ友とふたりで俺を相手に一晩中くんずほぐれつ。こりゃあ・・体力持つかな。ふたりとも俺好みの美人とかわいこチャンだし・・。
「なにをひとりでニヤニヤしてるのよ。着いたわよ。もうアイマスクを取っていいわ」。
突然エリの声によって、俺の妄想は中断させられてしまった。さぞかしにやけた顔をしていたことだろう。俺はまるで浮気を見つけられたようなバツの悪さでアイマスクをはずした。前を見ると、そこにはフロントガラスごしに瀟洒な都会風のマンションが建っていた。
つづく
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