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赤いイナゴの大群
第8話 軍団が機能不全に陥る中で処刑の命令が下される
女性だけの種族であるアマゾネス達にとって、「人」として認められるのは女性のみだ。男とは憎むべき敵であり、征服すべき対象であり、また時として肉欲を満たすためだけの存在でしかない。
彼女たちの考えるセックスとは、女同士で行う通常のもの(つまりはレスビアン)だけを意味し、男との関係はアソビとしての意味でしかない。いやアソビですらない、まるで人間以下の動物を相手するかのような、嬲りや弄びといったほうがいいかもしれない。だからそこで行われている形態は、一般社会での愛を中心にしたセックスとはまるで違った、女が一方的に精を奪い取るという略奪型のセックスでしかない。
そのため彼女達が、男に接する態度には人間に対する思いやりや優しさなどはこれっぽっちも存在することはない。気に入らなければ簡単に命を奪うことにも躊躇しないし、その殺し方が残酷極まりない方法であっても、全く罪悪感などを感じることもない。
アマゾネスの版図が広がり、軍団が移動していくたびに幾度となく繰り返されていく悲劇、大量の殺戮と残虐行為。もはや支配地と呼ぶことすら出来ない無住の大地が果てしもなく拡大していく。人を愛することを知らない赤いイナゴ達。彼らの目的は、そして行き着く先は・・・
「アイリン様、統帥部の来着に先駆けて、もう少しだけ征服地を増やしておいた方がよろしくはないですか?」
「むぅ・・」。
アマゾネス軍団先遣隊の幹部幕営。軍隊組織とはいえそこは女性ばかりの集団、どことなく艶めいた雰囲気を想像してしまいそうだが、そこには装飾の一つとてないあまりにも殺風景な光景が展開していた。
先遣隊は今あせっていた。この黄土が支配する地に入ってきてから、今までと違って進軍のスピードが大幅に落ちている。故地を離れてもう7年がたとうとしていた。故郷のコーカサス地方とはあまりにも異なった風土、気候、そして植生に食物。彼女たちは戦いにそして長引く遠征に、そろそろ倦み始めていたのだ。
捕虜にした男共を嬲り殺してみたところで、決して晴れることのないイライラ感。それは最上級の指揮官から最下層の兵士に至るまで、逃れることの出来ない焦燥感となって軍団全体をむしばみ始めていた。
そして鉄の規律を誇っていたアマゾネス達の中から、ついに脱走兵が出たのだ。丸一日も経ることなくして捕まった脱走兵は、全軍の兵士が見守る中で見せしめのために公開処刑にされた。しかしその後も脱走する兵は後を絶たなかった。
このままでは漠北の地の征服を終えた本軍(大帝アムーランが率いる本隊・統帥部)が到着するまでに、この先遣隊全体が崩壊してしまわないとも限らない。先遣隊の幕営の中では重苦しい空気に支配されていた。
「ところでアイリン様、昨日とらえたあの盗賊共の処分ですが・・・」。
「むう・・・そなたに任す・・」。
「アイリン様!」。
「今は・・もうしばらく考えさせてくれぬか・・」。
キャトランは、苦渋の表情を見せる司令官をこれ以上見るに忍びなかった。いつもの凛々しい彼女に早く、一日でも早く戻って欲しい。しかしそのためには、その根本原因の一つであるあの若い敵指揮官をなんとしてでも捕まえなければならない。偵察部隊を四方に派遣して探索を繰り返しているが、その行方は遥として知れない。いったいどこへ雲隠れしてしまったというのだ。
幹部幕営を出たキャトランは、やりきれない苛立ちともって行き場のない怒りを胸に、野営地のはずれに向かった。そこには臨時に組み立てられた刑場がある。軍規に違反した脱走兵達がそこには収容されており、ただ処罰の日を待っている。
厳重に柵で囲まれた刑場にはいると、刑場の責任者であるレイラが近づいてきた。でっぷりと太った巨体をゆすらせながら、レイラはキャトランに胸に手を当てるアマゾネス式の敬礼をする。
「キャトラン様、準備は整っておりますので、何なりとお申し付け下さい。司令官様からの処刑許可はなんと・・・」。
キャトランは、このオバサンそのままといった感じの女が嫌いだった。いったい我が軍団の中に、どうしてこんな醜悪なブタが同行してるんだ。身体を鍛えることもせずに、ただ食ってばかりいる無能なブタ、彼女は心の中でそう毒づきながらも、つとめて平静にレイラに命令する。
「アイリーン様からの命令はない。全ておまえ達に任すと仰った。従ってあの山賊共の処刑方法はおまえ達の考えたとおりにしてよい」。
「では、今後の見せしめのために、穴に放り込むってのも有りというわけでございますね」。
「そういうことになるな・・」。
その言葉を聞いて、レイラはにやりと残忍な表情を浮かべた。
穴とは宿営地のはずれにある岩山にある洞窟を指している。天然の洞窟であるが、内部が広く平らで、ここに宿営地を定めた当初は食料貯蔵庫としても使われていた。が今は多発する脱走兵を収容する、臨時の牢獄とされていた。
軍団にとって脱走は重罪であり、いかなる理由が有ろうとも決して許されることはない。みつかればその場で処刑されるのが、今までの遠征の全期間を通じて固く守られてきた鉄の規律だった。
しかしあまりに多発する脱走兵と、ここへきて突如として判断力を失い始めたアイリーンの指揮権放棄により、彼女達は処刑されることなく、この天然の牢獄に閉じこめられていた。
「レイラ・・・ところで今日でもう何日になる?」。
「はい。一番古くからいるヤツで24日、新しいヤツでも1週間になりますかな・・」。
「そうか・・・思えば不憫よな。ひと思いに命を絶ってやればよいものを。あれではまるで生き地獄そのものではないか・・・」。
キャトランは、たとえ脱走したとはいえ、もとは自分たちの軍団の兵士として、幾多の戦いを共に経てきた者達に、このような苦しみを与えていることにやり場のない怒りを感じていた。その怒りは本来ならば軍団幹部に向けられるべきものなのだが、アイリンの苦悩を知っているだけに、それは屈折したまま目の前のブタ女に向けられていた。
「はい。それはすさまじい光景でございますよ。食料も水も一切与えることなく、与えられるのは例の薬草だけですから・・。穴に放り込まれて5日目をすぎると、何もかも忘れて肉欲のことしか考えられないケダモノと化し、昼も夜もなくお互いの身体を貪り合いはじめますのです。
これがまさに見物でございましてね。ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ・・・。いかがですか。今の囚人共の様子、ご覧になられますか」。
レイラはいかにも面白そうに話す。それがいちいちキャトランの勘に触る。
こやつは彼女達の境遇を楽しんでいるのか。己れは醜くぶくぶくと太っていながら、何日間も水も食料も与えられないまま、真っ暗な暗闇に放置される苦しみと恐怖を少しも判ろうとしないのか。しかもあのような得体の知れない薬草を与えて、人間としての尊厳すら失わしめようとしているのだ。
「もうよい。不愉快だ。それ以上余分なことは言わなくとも良い」。
「はっ、かしこまりました。では、私めは役目に従いまして、直ちにあの山賊共を処分して参ります。穴の中の裏切り者達には思わぬ贈り物になるやもしれませぬな。はははっ、ではこれにて・・・」。
「・・・・・」。
立ち去っていくレイラを、キャトランは苦々しい思いで見送った。例の薬草で気がおかしくなってしまっている彼女達に、生身の男の身体を差し入れることがどんな結果になるのか、キャトランはもうこれ以上考えたくはなかった。
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