性犯罪根絶法第31条

                                               その5

 
「被告に有罪を言い渡す」。
 静かな法廷に冷たい女性裁判官の声が響く。
 被告席で一人立ちつくす男がびくっと体を震わせる。

 「本法廷は、被告の犯した犯罪こそ、社会の安寧秩序をかき乱し、女性の権利を蹂躙する許されざる行為と認め、これに相当する厳罰を科すものが適当であると判断した。しかも被告人は罪を犯したという意識がきわめて希薄であるのみならず、本法廷を侮辱するに等しい詭弁を弄し、本件の起訴根拠たる法令そのものを否定し続けた。これらのことが意味することは・・・・」。

 茶番だ。とんでもない茶番劇じゃないか・・・
 男は口には出さなかったものの、アキラメにも似た表情で法廷を見回した。

 既に死語となった「ハイミス」という表現こそがピッタリと来るような裁判官の、キンキンするような声が耳につく。最初からこんな判決になることは目に見えていたんだ。初公判の時から彼女の男を見る目に、憎悪と軽蔑のまなざしが消えることはなかったんだから。

 向かって左手に検察官席。そこに座る二人の女検事の顔には、満足げな笑みが浮かんでいる。彼女たちから発せられる陰湿で意地悪な尋問には、何度も苦しめられた。よくもまあ、これほど全ての行為を悪意に解釈できるものだと感心するほどだった。

 反対側には弁護人席。そこにいるのは若い女性の見習弁護士と、初老の気の弱そうな男性弁護士の二人。ほとんど弁護にもならないような質問に、えんえんとつきあわされた。今も落胆するでもなく、怒りの表情を出すでもなく、しごく当然のような表情で読み上げられる判決文に聞き入っている。

 そしてこの法廷の結果に期待して集まってきた、たくさんの傍聴人達。その全てが女性達によって占められている、その全ての視線が血に飢えた雌ライオンさながらに、興味津々で、この茶番の判決文に満足しきっている。

 おかしい。異常としか思えない。

 「よって被告に対して、性犯罪根絶法第31条に定められた、羞恥刑20年を言い渡す。なおこの刑の執行については、上告及び控訴の権利は一切認められず、刑の執行は本日ただいまより執行されるものとする。閉廷!」。

 うそだろ? そんな無茶苦茶な判決って・・・

 男の思いとは裏腹に、傍聴人席からは歓声と拍手がまきおこった。神聖な法廷にあっては、なんと不謹慎な行動だ。そう思って頭をあげたとたん、男にはこの茶番劇の全てを悟った。

 「!」。

 傍聴席に詰めかけた大勢の女達だけではなく、裁判官、検察官、そして驚くことにあの見習い女性弁護士までもが一緒になって拍手をしているじゃないか。みんな一様にニヤニヤしたとしたいやらしい笑みを浮かべながら・・。

 グルだ。ここに詰めている女達はみんなグルだったんだ。一見まともな裁判手続きを踏んでいるように見えて、実は結果が最初から決まっていたんだ。こんな法廷ごっこにつきあわされて、とんだ時間の無駄だったんだ。ばからしい。男はふつふつと沸き起こる怒りに、ぐっと判事席のメスカマキリをにらみつけた。

 「ただいまより刑の執行を開始します」。

 法廷の隅に控えていた、刑務官(もちろん女性)が、つかつかと被告人席に歩み寄ってくると、両側から男の腕を捕まえた。

 「なっ、何をする」。
 男はその女刑務官から逃れようと、身体をを振り払おうとしたが、まるでプロレスラーのような体格をした女刑務官たちの腕力にはとうてい敵わない。

 「じたばたするんじゃない。大人しくしていないと痛い目に遭わせることになるぞ」。
 右側の刑務官がドスの利いた声で警告を発する。

 「いったい何を・・・」。
 「ふふふっ、女の敵にはお似合いの、死ぬより辛い刑罰の開始さ」。
「オンナのテキ・・・・?」。
 「そうだ。おまえは今日から女の敵として、社会の制裁を受けるんだ。女性をセックスの道具としか考えないお前のような腐った男は、身体でもって自分の罪を償ってもらうしかないんだよ」。

 女刑務官達は、いかにも慣れた手つきで男の両腕を後ろに回し、カチャリと後ろ手に手錠をかけた。こうなりゃあジタバタしたところでしかたない。大人しく刑務所に引っ立てられるしかなさそうだ。

 「わかった。大人しくするから乱暴はしないでくれ」
 「そうそう。今日はたくさんのギャラリーの皆様もおいでだ。皆さん刑の執行を今か今かと期待して、今朝は早くから傍聴席の権利を手に入れていたのさ」。

 「ちょっとまってくれ、ギャラリーって、刑務所に戻るんじゃないのか?」。
 「刑務所には入るさ。でも判決文は聞いただろ。この刑は本日ただいまより即刻執行されるんだよ。今この場でな」。
 「えっ?」。

 男の驚きを意に介することなく、左側の刑務官がいかにも慣れた手つきで、男の腰のベルトに手をかけた。同時に右の刑務官はむんずっと男の股間のものをズボンの上からわしずかみにする。

 「うっ、まってくれ、何をするんだよっ」。

 男は反射的に腰を引こうとしたが、その万力のような握力からは逃れることが出来ない。後ろ手にかけられた手錠をがちゃがちゃいわせて腰を左右に振ることぐらいしかできない。彼女はその指先をもぞもぞと動かしてズボンごしに男根をもみしだく。

 「ちょっと、やっ、止めてくださいっ」。
 「くっ。止めてくださいだぁ?。もうここがこんなに大きくしているのはどこの誰なんだよ」。

 そのとおりだった。こんな異常な状況下だというのに、いつの間にか男のあそこは大きく勃起していた。あの三人の女達に集団逆レイプされ、無茶苦茶に犯された夜を境にして、男はたくさんの女達に囲まれることに、異常な興奮を覚えるようになっていた。

 法廷で女達によって恥ずかしい質問をされ、傍聴席に詰めかける女達の視線にさらされるたびに、密かに勃起しては必死で隠し続けていた。未決囚の独房に戻ってからも毎晩そのことを思い出しながらオナニーにふけっていたのだ。

 「おまえ、こうなることを望んでいたんじゃないのか。ここにいる女達みんなから犯されたいって、そう考えながらここを立たせてたんだろうが」。

 「うっ!!」
 
 図星だった。そうなんだ。オレはいつもここにいる女達に犯されることを待ち望んでいたのかも知れない。毎回繰り返される法廷のやりとり、それは精神的な集団逆レイプであり、そしてそれが肉体を伴うものを密かに待ち望んでいた自分。そう考えたとたんに男の身体からは全ての抵抗が失われた。


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